Moonlight Piano #番外-lines


〜千住貴水視点「聞いてる?」〜
■「Sweet Emotion」のあやさんよりもらっちゃいました■
こちらの 「#番外-lines」 は、
あやさんからいただいたイラストと妄想……
それに、「HPでセリフなお題」を使用した「Moonlight Piano」の番外です。
って、コトでそのいただいたイラストとあやさんの妄想……
もとい、素晴らしい発想力からムクムクわたくしめの創作意欲に火がつきました。
メラメラ、あやさん曰く「海外ツアー中に思い出し笑いをする貴水くん」なのだそうです。
そうして、ほぼ設定から結末まであやさんの発想に基づいています。
すごいよ、あやさん。私以上に貴水くんを熟知してるよ(←書き手として、それはどうよ)!!
イメージ曲は、ドビュッシーの「夢想」ですかね。



 アンコールの演奏も終わって、今日の仕事がようやく終焉を迎えようとしていた。
 鳴り止まない拍手も……ツアーの終盤ともなると、精神が疲労してくるため嬉しいと思うよりは、億劫ささえ感じるようになる。

 控え室で正装の上着を崩し、タイをほどくと葉山貴水はフゥと息をついた。
 顔と身体のほとんどを醜悪な傷痕で蝕まれた姿は、現在ではトレードマークとして認識され、皮肉なことにコンサートの舞台で晒す分にはもう誰も顔をしかめる者はいなかった。
 ただ、やはり普段の生活の中では……そうも割り切ってはくれない。
 移動の道中やホテルの中、人前に出ればいらぬ注目、奇異の眼差しを向けられる。
 慣れている、とは言え疲れている状況ではキツイものがあった。
 だから。
 扉をノックされて、ツアーのスタッフに食事に誘われても……とても、行く気にはならなかった。
「悪いけど、遠慮するよ」
 と、閉じられた扉の向こうに返事をして、貴水は遠く目をすがめる。
 遠のく足音。
(……疲れたなあ)
 ――扉の向こうの喧騒が、早くなくなりますように。
 そう、願って目を閉じた。



〜 夢 〜


 舞台のライトは落とされ、わずかの非常灯が青く舞台を照らす。
 人のいなくなった舞台の上、ピアノに触れてホッとようやく緊張が解けていく。
 鍵盤に指を滑らせながら、とりとめのないメロディを奏でて貴水は彼女のことを想った。
 電話口で『たまってない?』と訊く彼女、『浮気なんか絶対、許さないから!!』なんて馬鹿げてる。
「たまってるよ。でも、 僕に そんなことができるワケがないんだ」
 だって―― じゃないと 意味 がない。

 できるなら、今すぐにでも君のところに帰りたい。

「 帰ろうかな 」
 ポツリ、と呟いて……それは、とても名案のように頭に浮かんだことだった。
 今からなら、今夜遅くの飛行機のチケットがとれる。二時間ほど乗れば、日本に着くだろう。
 幸い、今は日本のほど近くに滞在している。
「帰って、君を抱きしめたいんだ。なつきさん」
 彼女は許してくれるだろうか。
 と、考えて(いや、それはないな)と思う。
 ツアーを放棄してきた……なんて本当に知ったら、彼女の逆鱗に触れる。
 そして。
「 バカ! 」
 って、叩かれるのが関の山だ。
 はじめて彼女に平手をくらった時のように、彼女は叩く。
 自分の手のひらが一番痛いのに、まるで平気なフリをして僕を睨むんだ。

「 ……そういう人なんだよね、あの女性〔ひと〕は 」

 くすくすと思わず笑みがこぼれて、貴水は(すごいなあ)と感心した。
「傍にいなくても、この 威力 だし」
 いつの間にか、浮上している気持ちに我ながら驚いた。


*** ***


『 聞いてる? 』
 いきなり電話をかけてきた夫に、不機嫌な妻の声が訊いた。
 それと言うのも、かけてきたのは彼の方のクセに何を話すというワケでもなく、黙って彼女の話を聞いている だけ だったからだ。
「うん」
 それでも、貴水からすればなつきの声が聞けるだけでよかった。
 彼女の声はどんどん険しくなっていくけれど。

『もう! 本当、なんなのよっ』

「うん」
 頷いて、彼女の声に癒されながら、臨月間近の奥さんはちょっと情緒不安定なのかもしれない……と勝手なことを考える。
「なつきさん」
『なによっ!! バカっ』
「……もうすぐ、ツアーが終わるから」
 なつきの『ふーん、そう?』という気のない返事にも愛しさを覚える。
(ねえ、なつきさん。君も僕と同じ気持ちだよね)
 そう、感じられる。
 それくらい、この時間は 幸せ だと思う……。
 そして、

「 そしたら、帰るよ 」

 もうすぐ会える 幸せ を噛みしめて、貴水は微笑んだ。


あやさま「Moonlight Piano」イメージ
!注意! イラストの著作権はあやさまに帰属しています。勝手に持って帰らないでネ★

fin.

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