(な、なんなん……この人。酔っ払い??)
「は、はなしてっ!」
小槙が叫んで「えいっ!」と突き飛ばそうとするのと、どかっとすごい音がしたのとはほぼ同時だった。
身体にまとわりついていた不快感はどっかに飛んだのでホッとしつつ、
( ど、どか? ……って、なんの音? )
〜 同窓会の証言者2 〜
目を瞑っていた小槙は、その妙な音に恐る恐る目を開ける。
すると、彼女に抱きついていた三宅ははるか遠くに飛んで尻餅をついていた。
腰のあたりをさすっている、のを見ると……もしかして、蹴られた?
「ってー、何すんねん。馳ー」
「つーか! 三宅くんが悪ノリしすぎやねんっ」
泣きそうな目で訴え小槙は、触られた胸をおさえた。
まだ、感触が残ってる気がしてゾッとした。
「 仁道 」
呼ばれて、小槙はハッとした。
いつもよりも剣呑な表情の輝晃に見竦められる。
「馳、くん?」
何故か、とても懐かしいような気がした。
バッと手を取られて、ビックリする。
「 送る 」
「え? あ、あの……わっ!」
引っ張られて、小槙は彼に連れられて会場をあとにする。
背に響いた悲痛な女の子の嘆きと誰かを非難する声に後ろ髪を引かれて……提案してみる。
「輝くん、……もどった方がええんちゃう?」
「なんで?」
「だって、輝くんはまだ来て全然、時間経ってないやん。そう集まらへんメンバーやし……もったいないで?」
「 あのな、小槙 」
むっ、と仏頂面をした彼は小槙をふり返り、真剣に怒っていた。
「おまえの胸を ほかの 男に触らせる方が もったいない に決まってるやろ! ああっ、くそっ! ハラ立つアイツら!!」
憎々しげに毒づいて、輝晃はまた彼女の手を引いて歩き出した。
大通りに出る前、帽子とサングラスをかけて……くすくすと笑う小槙に眉を寄せた。
「なんやねん」
「だって、おかしいわ。もったいないやて」
「俺は太っ腹やない。相当なケチや……悪かったな」
「ううん」
と、小槙は首をふって、不機嫌な輝晃の腕にくっついた。
「 ケチの方が、ええ 」
嬉しくて、感謝したい気持ちになった。
*** ***
『ごめんな〜小槙ちゃん』
二次会に突入しているらしい向こう側で、カナコが謝った。
「ええよ、もう……それより、カナコちゃんの方だって……その、馳くんが帰ってもうて大変やったんやないの?」
『んーもうねー! せっかく来てもらったのに、「悪がきトリオ」のアホが怒らせてしもうてなあ? まあ、ええねん。しっかり目の保養はさせてもらったし、「悪がきトリオ」は女子全員で コテンパ にしといたから! 小槙ちゃんも許したってな〜』
明るく笑ってカナコは言うと、少し声のトーンを落とした。
『それでな、どうなん?』
「え?」
『え? や、なくて! 輝晃くんにお持ち帰りされてるんとちゃうの?』
「なっ! さ、されてへんよ? まさか……」
お持ち帰りはされてないが、ココにはいる――とは、とてもじゃないが告白できない。
市内のホテル、八縞ヒカルのマネージャーである野田が選んだ信用の高いホテルらしく、グレードもそれなりに高そうな部屋だった。もともと同窓会のあとは泊まるようにと輝晃から言われていたので、「お持ち帰り」ではない……たぶん。
動揺して、小槙は目を泳がせた。
『ふーん。もったいないことしたんやねえ? 輝晃くん、まだ小槙ちゃんのこと好きやったみたいやのに』
「ははっ。そ、そうやろか?」
『絶対、そうやわ! ええなあ、小槙ちゃん』
うちもあんなカッコいい人に好かれたいわ……と羨ましそうに呟くカナコに、小槙は(ごめんな)と謝りながら「おやすみ」と言った。
携帯を切ると、小槙は背後から輝晃に抱きしめられた。
シャワーを浴びて生乾きの彼の髪が雫をたらして、肩に触れる。首筋になぞるような吐息がかかる。
「あ……」
ローブの前を易々と開かされ、ベッドに押し倒されると思わず顔を隠した。
(お、思い出してしもうた……)
首まで、きっと真っ赤だろうと思うと恥ずかしくて顔を見ることができない。
「小槙?」
訝しむ彼の声を耳にして、さらに追いつめられる。
(どないしよ?)
と、今更蘇った記憶に勝手に顔が熱くなった。
伝説の「熱いちゅー」。
手を外され、間近に迫る輝晃の顔を見て触れる唇に身体がピクリと 反応 した。
>>>おわり。
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