大阪の梅田、飲み屋を貸しきって催された中学校の同窓会で、仁道小槙〔にどう こまき〕は(どうしよう……)と立ち尽くした。
一学年を集めた結構大規模な同窓会にも、驚いたが。
集まったメンバーに、囲まれて困惑した。
親友である佐藤カナコ〔さとう かなこ〕の話では、小槙が来るってことで、馳輝晃〔はせ てるあき〕とコンタクトをとり、ふたつ返事で快諾をもらったとのこと。
(そりゃあ、わたしが輝くんにその話してたから……野田さんにスケジュール調整してもらったあとやったんやわ)
八縞ヒカルのマネージャーである野田を思い浮かべて、申し訳ない気持ちになる。
馳輝晃、芸名・八縞ヒカルは若手俳優として現在舞台だけでなく、テレビでも活躍中の人気俳優だった。
そして、小槙の小・中・高と同じ学校の幼馴染であり、完璧にできあがった「恋人」でもある。
しかし、その事実はもちろん一般的には「秘密」。
〜 同窓会の証言者1 〜
輝晃よりも先に、会場に入った小槙は久方ぶりに会ったクラスメートに取り囲まれ、質問攻めだった。
まずは、高校の時のこと。
そして、東京に行ってから何かなかったとか……いや、あったにはあったけれど、それは輝晃にも言われていたので黙っていた。
そうこうしているうちに、中学校時代の思い出話になって……小槙の知らない事実が次々に判明した。
輝晃が小槙を好きだったことは、周知の事実だったらしく――。
「一年の頃、アイツ、屋上からおまえのこと眺めててんでー。いやー、えらい熱い視線でおまえのこと見てるからすぐ分かったわ」
コレは、輝晃と一年の頃同じクラスだった田村雄也〔たむら ゆうや〕の証言。
「うちはなー、告白したら「仁道が好きや」ってハッキリ断られたわ。ショックやってんでー、黙ってて悪かったなー」
と、コレは親友・カナコの証言。電話で聞いていたけれど、まさか名指しで断っていたとは――じゃあ、あの頃輝晃に告白していた女の子はみんな、知っていたのだろうか?
「まあ、しゃーないって。あの頃、馳が仁道さんを好きやったんはバレバレやったし……仁道さんが、こんなに鈍かったやなんてなあ? 笑える」
三年の頃のクラスメートである氷室圭太郎〔ひむろ けいたろう〕にカラカラと笑われた時には、小槙はさてあとから来る輝晃と普通に目が合わせられるか、自信がなかった。
(わ、わたしって、一体……笑われとるし)
そして、最後の衝撃新事実。
「三年の文化祭の『ロミオとジュリエット』!」
「馳と仁道のキスは、有名やで!!」
「伝説の「熱いちゅー」やもんねっ」
( はっ?! )
ちゅーって、ちゅーって……小槙はクラクラしながら、風邪をひいたときのことを思い出した。
( 輝くーん、わたしの中学時代に何しとんねん )
もう、 絶対 まともには 彼と 顔が合わせられないと思って、真っ赤になった。
*** ***
ピロローン、と携帯が鳴ったのに気づいて、小槙は化粧室へと入った。
『 今から行く。言い寄られてないやろな 』
「――言い寄られるかいな。わたしはそんなにモテへんで」
と、ため息を吐〔つ〕いて、小槙は心配性な彼をやっぱり好きだと思う。
どちらかと言うと、小槙の方が彼が誰かに言い寄られないか……いや、もう確実に言い寄られるのは分かっているが……心配になる。
しかして、 ビックリ展開 は小槙を待っていた。
化粧室から出た小槙を、田村雄也と氷室圭太郎、そして三宅大地〔みやけ だいち〕が加わって企み顔で言った。
「仁道さん、ちょっと協力してくれへん?」
「は?」
「馳が焦るところ見てみたい、とか思えへん?」
「いや、べつに思わへんけど……」
「そう、言わんと……俺らに言い寄られてくれるだけでええねん」
(……おいおい)
そういえば、この三人は中学時代の「悪がきトリオ」だったと、今、思い出した――。
ざわっ、と後方がざわめいただけで分かった。
キャー、と黄色い声援がかかって、「馳くーん」と呼ぶ声が聞こえた。
小槙もふり返り、人の影に高く出た長身の彼の頭を見つけて目が合う。
(――輝くん)
「仁道さーん、まあ飲んで。ハイ」
田村雄也にチューハイのグラスを手渡され、
「弁護士になってんて? 頭良かったもんなあ……髪も手入れが行き届いてるわ」
と、そう言って氷室圭太郎は小槙の髪を撫でた。
「そうそう、それに雰囲気変わったと思うたら眼鏡やめたんやな」
三宅大地は俯く小槙の顔を覗きこんで、無遠慮に近づいた。
「 ひあっ! 」
あまりの近さに驚いた小槙は身を引いて、頬を染める。
「こ、コンタクトやねん。この方が動きやすいから……」
なんとか、彼らから逃れようとするが三方を固められ、逃げようとしても逃げ道を塞がれる。
輝晃に弁解しようにも、声をかけることさえできない。
彼は彼で、女の子たちの質問攻めにあっていてチラリ、と小槙を確認したあとは、あまりコッチを見なかった。
(ど、どないしよ……誤解、されてるんやろか?)
せめて、状況説明をできたらいいのだけど……と考えこんでいたら、急に後ろから抱きしめられた。
「なっ!」
しかもである。
おぞましい感触が、胸に。
「無視せんといてーなー、仁道さん。おっ、結構あるねー着痩せするタイプ?」
もみもみと、冗談めかして三宅に揉まれて小槙は真っ青になった。
>>>つづきます。
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