焼けと机と室と。 淡い恋、苦い味1


〜NAO's blog〜
 ■小槙さんと輝晃くんの、過去話+中学二年・春■
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 佐藤カナコ〔さとう かなこ〕からの突然の相談に、仁道小槙〔にどう こまき〕は「え?」と言葉を失った。
 小学校からの仲良しであるカナコとは、中学一年では同じ四組だったが、二年になって離れてしまった。まあ、一組と二組という隣組なので体育や美術、家庭科という副科授業は一緒なのだが――。
 で、相談を受けたのは体育の授業の最中だった。
「いややー! 固まらんといてよ、ハズカシーやん」
 バシっ、とそれは思いっきり背中を叩かれたので、小槙はとても痛かった。
「ご、ごめん。ビックリしてしもうて……」

 失礼な話だったが、この カナコ からそんな 色気 のある話を聞くとは思わなかったのだ。



〜 淡い恋、苦い味1 〜


「 うち、輝晃くんのこと好きみたい 」

 がーん、と小槙はまるで突き放されたようなショックを受けた。
(わ、わたしとおんなじやと思うてたのに……カナコちゃんまで恋をするやなんて。もしかせんでも乗り遅れてしもうた?)
 色恋に遅れている、とは自覚していたが、まさか親友にまで追い越されてしまうとは。
 しかも、その相手はあの馳輝晃〔はせ てるあき〕だ。
「入学式の時は、わたしのこと、ミーハーや言うてたのに」
「あははー。せやねー、そんなこともあったわー」
 カラカラと笑って、カナコは「若かったんやね」とまるで遥か昔を思い返すように目を細めた。
「だって、やっぱりカッコいいんやもん。なんか、構ってくるしなー」
「そうなん?」
「うん。うちも最初はあんまり興味なかったんやけど、話しかけてくるし。なんか、妙に視線を感じるねん」
 と、カナコはぽわんと頬を染めて笑った。
(カナコちゃんが、かわいい……)
 恋とは、少女をキレイにするものなのだと小槙はハジメテ知った。
「ふーん、脈アリなんやね。わかった。カナコちゃん、わたしも応援するから」
「ありがとー」
 コクコクと小槙が頷くと、カナコは嬉しそうに礼を言った。



( ホンマや )
 と、小槙はカナコの言葉を目の当たりにして呆然とする。
 輝晃は、よくカナコの傍にいる。
 小槙がクラスに顔を覗かせたら大抵、カナコは彼と話をしていた。
「あ。小槙ちゃん!」
 カナコが元気よく手を振って、輝晃も小槙に手招きした。
「え、えっと。コンニチハ」
(邪魔してる? わたしってばオジャマ虫?)
 変にかしこまった挨拶をして、彼の失笑を買う。
「仁道、どうしたん? おかしいで」
 くすくすと笑うその顔も、イジワルなのに憎めないほどカッコいい。
「うっ。なんでもないなんでもない」
(あかんあかん、普通にせな……)
 ふるふると首を振ると、伸びてきた二つ分けのおさげが揺れる。
「せや。輝晃くん、気にせんといてやってよ。小槙ちゃんがおかしいのはいつものことやねん。頭はいいのになあ?」
「カナコちゃん、それひどい。わたしは一般的な女子中学生やのに」
「いや。そうやな……確かに、仁道は「 天然 」入ってるよな。ワザとやないんやったら、相当鈍いし」
 やけに納得する輝晃に、小槙はウーと低く唸った。
「どういう意味やねん。失礼な……馳くん、何を根拠にそないなこと言うん?」
 ふっ、と目をすがめた彼はビックリするほど色っぽかった。
「 根拠? 」
「……え?」
 やけに真剣なその声に、戸惑う。
(思わず、握り拳作ってしもうたやん……)
 親友をかえり見ると、彼女はぽわーんと輝晃に見惚れているし。
 絶体絶命、孤立無援。
 じんわり、握った手の中に汗をかく。
「あの……」
(うーわー。ど、どうしたらいいん? そんな真面目にとられるやなんて思わんかったんやけど)

「 あるで。――教えようか? 」

「いい!」
 思わず反射的に首をふって小槙は辞退した。
(いや、なんかむっちゃ! 勘違いしそうやし。つーか、これ以上いたらあかん……絶対あかん!!)
「残念」
 くすり、と首をすくめて小槙を見下ろす輝晃に、小槙はチャイムが鳴ったのをいいことに脱兎のごとく逃げだした。



 それから。

 小槙は極力、カナコと輝晃のいる教室に行かないようにした。
 ひとつは、二人の邪魔をしないため。
 もうひとつは、自衛本能だった。時々、輝晃は小槙の心を不用意にざわつかせた。

(はあ……馳くんってタチ悪いわ。乙女転がしなんやもん)

 彼自身はそんな気もない、きっと普通に接しているつもりなのだ。けれど、その思わせぶりな態度と端正な外見は恋愛若葉マークの小槙を簡単に陥落させるにちがいない。


 >>>つづきます。


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