焼けと机と室と。 むすんでひらいて2


〜NAO's blog〜
 ■小槙さんと輝晃くんの、過去話+小学三年・秋■
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 久方ぶりに会った輝晃の目に自分が映って、小槙は思わず俯いた。
 頬が熱い。
 ここは兄である旭が長い間、世話になっていた 柔道場 だった。畳の匂いと静かな空気、神聖な場所だったから邪な感情があふれたらすぐにバレてしまうに違いない。
「小槙?」
 差し出された輝晃の手は、旭によって遮られ小槙は顔を上げた。
「まだ、早い。試合が先や」
「大人気ない。少し話すくらい、構わないでしょう?」
「あかん」
 融通のきかない頑固な返事に、輝晃は諦めて小槙から離れた。

 夜の道場の真ん中に二人は立って、礼の型をとる。



〜 むすんでひらいて2 〜


「輝くん……」
 彼の背中に呼びかけて、小槙は泣きそうになった。今生の別れでもないのに、後悔が渦巻く。
(ちゃんと、目を合わせて「待ってた」って、「勝ってな」って言えばよかった)
 負けたって、本当は構わないけれど……小槙が選ぶのは 結局 同じ人なのだから。
「輝晃くん!」
 旭に左の襟を掴まれた輝晃は、苦戦を強いられていた。もともと輝晃には柔道の経験はなかったし、二十年のキャリアを持つ旭に勝つのは至難の技だ。
 それでも、この一ヶ月で技を凌ぐだけの勉強はしてきたらしい。防御に関してはほぼ互角、しかし攻撃を仕掛けるのは旭の方が遥かに上手い。
 攻撃を仕掛ける瞬間にわずかに生じる隙が、命とりになる。
 道場に響いた一本背負いの音に、小槙が駆け寄った。
「輝晃くん!」
 彼は荒く息をしていた。
「あー、悪い。負けて、しもうた」
 大の字に転んだ輝晃の上半身に抱きつき、小槙は首を振る。なんとか体を持ち上げて顔をしかめた輝晃は、同様に彼女の背中に立って息をつく旭に目をやった。
「ええ。お兄ちゃんの許しは貰わんでも……ええねん。わたしは、輝晃くんと、結婚する」
 ギュッ、と輝晃の腕が力をこめて彼女を抱きしめた。
「ホンマに?」
「ホンマに」
「ウソやない?」
「ウソやないっ」
 目を見つめ合って確認し合う二人に、背後の旭が「おいこら」と声を荒げた。
「誰も認めんとは、言うてへんやろ!」
「え?」
 小槙がビックリしたように顔を上げる。
 ふん、と鼻息をついて旭は腕を組んだ。
「まあ、素人のクセに強かったし……小槙に対しても真剣らしいからな。しゃーないやろ」
 小槙がいい、と言っているものを無理から反対しても仕方がない。
「今更やけど、祝ったるわ」
「お兄ちゃん……」
 うるうる、となった小槙の肩を輝晃が押さえ、「そら、どうも」と微笑んだ。
「お義兄さん」
「まだ、義兄ちゃうわ! ……おまえ、俺の袖を取りにくるなんざ、百年早いねん」
「次は、取りますから覚悟してください」
 相変わらずの挑戦的な眼差しに、旭は片眉を吊り上げて「いつでもかかってこいや」と背中を向けた。そうして、道場の出入り口に手をかけると忠告するように「今日は 家に 帰せよ」と言った。



 強い力で抱きしめられ、ほぼ一ヶ月ぶりに重ねられた唇に小槙はうっとりとなっていた。
「輝くん……」
 だから、その彼の手がブラウスの前のボタンを外していることも、座りこんだ足首からすべってスカートを捲り上げていることにも、あまり気がいかなかった。
「小槙」
 呼びかける声とともに、下着を避けた指が足の付け根に差しこまれて大事なところに触れた。
「あ……」
 ビクリ、と体をふるわせ、ようやく事態を把握した。
 溝を滑る指先。
「……輝くん、ダメ……あかん、わたし」
 などと否定を口にしながら、小槙の体は唯々諾々と彼の指を受け入れる。

「あぁぁん」

 輝晃の肩に手をかけて、たまらず足を崩した彼女は腰を浮かせて、膝立ちになった。そうして――切なげに見下ろしてきた小槙の眼差しに彼は上目遣いで、訊いた。
「先刻〔さっき〕、目をそらしたんはなんで?」
「だって、あふれそうやった」
 彼女の肌蹴た前からはピンク色の下着が覗いている。輝晃は強く抱き寄せると、谷間に顔を埋め、歯を立て引き下げた。
 全開したブラウスから露になった、彼女の白い肌の双丘。その天辺で熟れたさくらんぼのような実をひとつ、口に含んで……含んだまま、笑みを浮かべる。
「ココが?」
 と、輝晃は茶化すように下肢の指を蠢かした。
「やぁ……ちゃう! もう、気持ちの問題やもんっ」
 ぐい、と小槙の肩を押して背中を支え、畳の上にゆっくりと転がした。
「せやかて、ほんなら……コレはなに?」
 担いだ足の太腿のやわらかい腹にキスをして、輝晃は捲れあがるスカートを押さえて隠す可愛い彼女と見つめ合う。
「濡れすぎ? 俺、そんなに触ってないよな?」
「……アホッ」
 下になった小槙の黒髪は畳に広がり、その顔は今までになく首のあたりまで真っ赤になって 暴かれた 羞恥に耐えている。片方の足首を高く掲げられた格好というのも理由だが、それ以上にそこから見えるだろう自分の姿が尋常でないことを知っているがための反応だった。
 押さえても、その中に潜りこんだ彼の手はどうしようもないというのに……小槙は砦を守るのに必死だった。
「あかん、って……輝くんっ」
「わかってる、約束やし……場所が場所やし……最後まではせぇへん。小槙が欲しいって言うまでは、な」
 輝晃がそう宣言すると、小槙はひどく困惑した表情になって彼を見つめ返した。


*** ***


 結納の日。と言っても、格式ばったものではなかった。
 形程度の結納品と日取り決めで双方の親が揃い、結婚までの準備を話し合っていくのだが……仲人も頼む気がないらしい輝晃は勝手に式場まで決めていた。
「なっ、なんで?!」
 その式場のパンフレットを示されて、小槙は愕然とした。
 いま流行りの式場は彼女も憧れていたカトリック系の教会で、オシャレなガーデン・ウェディングができると有名なところだった。が、もちろんそれだけ人気があるワケで通常一年程度は予約でいっぱいという「超」がつくレアプレイスなのだ。
「予約したって……どうやって?」
 その場所を 今年 の 十月 の 大安 に予約した、というのだから小槙が抱く疑問も 当然 だった。
「どうやって、って電話で普通に取ったで? そうや、今度一緒に見に行こか?」
 俺も一度行ったきりやし、と輝晃は平然と誘う。
「見に行くのはええけど……つーか、行きたいし。それより、電話でってココ、むっちゃ取れにくいって聞いたで? 嘘やろ」
「嘘やないって。ちゃんと、電話で、去年のうちに取ったから」
 ニッコリ、とこれまた見事な爆弾発言を投下して、輝晃は小槙を驚かせた。


 傍から見ると、微笑ましい(?)ばかりの二人の会話に双方の母親は「まあまあ」と顔を見合わせ、小槙の父親と兄は寡黙に徹し熱いお茶をすすった。
 奥手な彼女には、これくらい積極的な彼でちょうどいい……のかも、しれない。

 外は、もう梅雨だというのによく晴れていた。


 >>>おわり。


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