寝室とリビングを隔てる扉は完全に閉ざされていた。
〜 ふたり時々猫日和2 〜
彼が面白がっているのだと、分かっているのに……黙ってと命じられると従ってしまうのは小槙の小槙たる所以だろう。
キュッ、と目を閉じて、息をこらえる。
「はぁっ! あんっ」
服を剥がれ、スカートをたくし上げられた小槙はこぼれ落ちた胸を輝晃に執拗に撫でられてはじんわりと汗をかいた。
適度に湿り気を含んだ肌は、彼の指の滑りを助けてくれる。
立てた両膝を左右に大きく開かれて、汗の流れる太腿を指がなぞった。
「……んっ」
こくり、と喉を鳴らして小槙は輝晃をうかがった。
声を我慢するには、彼の行動を把握するのが不可欠だ。恥ずかしいけれど、仕方ないと思った。
すると、小槙のそんな心情を察しているのか、彼はにやりと口の端を上げた。
「どうして欲しい? すぐ挿れようか? それとも――」
太腿をのぼった彼の指が下着をよけて、彼女の入り口をわざとひかえめに押し広げ、ぐるりと淵をなぞる。
たまらなくて、小槙は目を細めた。
吐く息がふるえる。
上半身を脱いだ輝晃の首に腕を廻して、背を反らせる。
じわじわとした快感。
少しの刺激で痛みをともなう張りつめた彼女の胸は、輝晃の指先でその自らの形を確かに伝えた。
「あっ! ふぅっ……ん。ふやっ……て、輝くんっ!」
「 それとも、ココをもう少し濡らすか? って訊こうかと思うたけど……必要なかった? 」
すでに潤った場所に響く音を鳴らして、輝晃はくすくすと満足げにからかった。
ぽかっ、と小槙は真っ赤になって彼の男っぽい骨ばった肩を叩く。
「アホッ、スケベ! 知らんっ」
輝晃は怒る小槙に慣れたキスをしてなだめると、彼女が気づく前に下着を脱がせて準備を整えた。
「小槙」
至極、真剣な合図。
あてがわれる彼の焼けるような熱に、小槙の身体もピクリと反応した。
「はぁっ……! ぅん……」
はっ、という繰り返される息遣いに互いの身体が重なる律動の摩擦がギシギシとベッドを軋ませた。
運動の激しさを表情ににじませながら、輝晃の顔がほころぶ。
「冗、談やなくてさ……今日の小槙、めっちゃエエ! どうしたん?」
「……そ、んなん……訊かんといて」
小槙は顔を背けて、必死に彼の動きに耐えた。
彼女の顎をとらえて仰がせると、輝晃はまっすぐに無視して「教えて」とキスするほど近くで訊ねる。
熱い息が唇にかかって、小槙の息も上がった。
思考は溶解寸前まで高くなる。
「 輝晃くんが、足らへんねん…… 」
遠く目を涙に潤ませて、喘ぐ息の下から吐き出した剥〔む〕き出しの心。
「上等や、小槙」
輝晃は唇を重ねると、すぐに最奥に達して想いの限りを吐き出した。
一度ではもちろん、満足しなかった。
ようやくひと心地ついた頃……二人は深い青色のシーツを敷いたベッドの上で抱き合うと、あさいキスを重ね合う。
「輝くん……まだ忙しいん?」
「ああ、うん。そう……今度は映画の撮影で二ヶ月くらいかな?」
「ふーん」
何でもないふうを装いながら、身を寄せてくる小槙に輝晃は「さみしい?」とできるだけ軽く訊いた。
小槙は仰いで、首を振った。
あきらかに嘘だとわかるが……それが、彼女らしかった。
「ええよ。輝くんはそういう仕事の人やねんから、仕方ないもん」
「そうか」
理解はしているが、そういう我慢強い彼女が健気だと思う反面、憎らしいとも思う。
結局はそれほどに輝晃を縛るつもりはないのだろう。
「応援する」
もちろん、彼女の精一杯の虚勢だ。
しかし、まるで一ファンのような言動はそれだけで輝晃から距離をとっているように映ってたまらなくなる。
「おまえは俺のなんや?」
「え?」
曇るような囁きは、首を傾げた小槙には届かなかったらしい。皮肉げに微笑んで、「なんでもあらへん」とコツンとおでこ同士をつき合わせた。
すぐ近くに彼女の驚いたような目があって、息を呑むのがわかった。
「頑張るわ――早く終わらせんと小槙に会われへんし、主演やし?」
「いつも思うけど、輝くんってなんでそんなに楽天的なん?」
心底不思議とばかりに眉を寄せて、小槙は訝しんだ。
輝晃からすれば、小槙の気持ち以外のことならおおよそ何とかなると思っている。
「 そら、もう難攻不落のお姫さまに鍛えられとるから 」
冗談めかして言った本音は、彼女には素直に「冗談」として受け取られた。
「上手いんやから」
くすくす、と可愛く笑われて、その笑う唇にキスを落とす。
輝晃は寝室の扉をカリカリと 誰か が引っかく音に気づいたが、聞かなかったことにして――もう一度、彼女から求める声を聞き出すためにまずは軽い一手を繰り出した。
>>>おわり。
ふたり時々猫日和1 <・・・ ふたり時々猫日和2
|