焼けと机と室と。 異国の空の下で


〜NAO's blog〜
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 ホノルル空港を出ると、仁道小槙〔にどう こまき〕は目を細めた。
 よく晴れた青い空には白い雲、燦々と射〔さ〕す太陽の光は日本のそれよりも強いような気がするのに、肌に感じる温度は爽やかだった。
 初めての海外で、小槙はキョロキョロと辺りを見渡した。
「とりあえず、アロハタワーかな……」
 旅行会社から貰ったガイドブックを開いて、バス停に向かって歩く。小槙のような観光旅行者は多く、すぐに人波に呑まれて迷うことなく目的地に辿り着くことができた。
 基本的には自由行動のパック・ツアーを利用してやってきた、ここハワイは芸能人の休養地としても有名な観光のメッカ。
 初めての海外旅行なら、やっぱりこういう場所の方が何かと安心だった。
 治安もいいし、日本人観光客へのフォローが行き届いている。



〜 異国の空の下で 〜


「 ハワイ? 」

 小槙が提示した場所に、馳輝晃〔はせ てるあき〕は困惑した。
「だって、わたし海外ってハジメテやし。最初はハワイの方が安心やねんもん」
 堅実な彼女らしい答えに、輝晃は息を吐いた。若手俳優として名の売れている 八縞ヒカル という一面を持つ彼からすれば、海外旅行の王道で芸能人の多いその場所はイコール「マスコミ」関係者も多いワケで何かと面倒である。
「だから、輝くん無理せんでもいいって……」
 小槙が気遣うのを忌々しげに遮って、輝晃は不機嫌に言った。
「無理とちゃう。せやけど、一緒の飛行機に乗るのは諦めなしゃあないなあ」
 と、至極残念そうなのを、小槙は一瞬理解できなかった。
 彼女は、最初から一緒の飛行機に乗る気などない。だからこそ、ハワイがいいと思ったのだ。
「な。なに言うとるん? そんなん当たり前やろ??」
 いくら変装をして身元を隠しても、飛行機のように長時間同じ場所に留まれば八縞ヒカルだとバレる。そんな彼が女性連れで海外旅行なんて、週刊誌のいいネタになりそうだ。
 輝晃は小槙の主張に眉をひそめ、「何がやねん」と自分が描いていたプランを示した。
「ハワイみたいな場所やなかったら、バレてもたかが知れとるし、少しくらい記事になっても困らん。嘘やないんやし……けど、ハワイなんかでバレたら旅行自体邪魔されかねんから」
 それだけは、避けたいと輝晃がイヤそうな顔をした。

「 わたしは、ハワイの方がええ 」

 と、空恐ろしくて小槙は再度強く主張した。


 アロハタワーのある場所から観光用に出ているバスで、市内を廻ってホテルに着いたのは日が傾く頃だった。
「 遅かったな 」
 ホテルの案内された部屋に入ってすぐ、中で待っていた彼に厭味っぽく声をかけられて小槙は驚いた。
 確か、自分よりもあとの飛行機だったハズなのに。
 いや、小槙はハワイがハジメテだが、彼は何度も来ているのだ。
 観光なんてせずに、まっすぐにホテルに入ったにちがいない。
「観光してて……あの、輝くん?」
「なに?」
 普通に抱き寄せられて、小槙はキスを受け入れるとすぐに深くなる彼のスキンシップに抵抗した。

「シャワー浴びたいんやけど……それと、食事。いきなり、コレはないんちゃう?」

 彼女の服を床に落として、輝晃はにっこりと物分りよさそうに笑った。
「ええよ。まずはここで小槙を食べて、シャワーの使い方教えたる――」
 って、意味がちがうから。
「いややっ。いやいや!」
 抱きこまれてベッドに押し倒された小槙はジタバタと暴れたが、すぐそばで「そう言わんと」とかるーく受け流され、裏腹な重いキスを返されるともう――ダメだった。


*** ***


( ウソツキ―― )

「シャワーの使い方って、意味ちがうし」
 ベッドのシーツにくるまって、ぐったりとなった小槙は抗議した。
 今更、という気もしないではないけれど。
「そうか?」
 と、逆に輝晃はスッキリとした表情で、小槙の濡れた髪を梳いた。ニヤリ、と笑う。
「出し方と止め方は教えたつもりやけど、それどころやなかった?」
「輝くんが一緒に入るからやん! あんなん……あんな……」
 キッ、と輝晃を睨み上げ、途端思い出して真っ赤になる。

「ごめんて。お詫びに夕食は俺がいいとこに連れてったるさかい」

「……調子いいんやから」
 夕食という単語にもぞもぞと身体を起こす彼女を、輝晃は「小槙」と呼んだ。
「アレ、見てみ」
 と、窓の外に顎をしゃくって目をすがめる。

「 キレイやな、あの時みたいや 」

 空を彩るサンセットの朱色が部屋まで染めて、輝晃の黒髪と瞳もキレイに映していた。
 あの時って、はじめて言葉を交わした小学校の時のことだろうか。
 小槙はジッ、と彼の美しくかたどられた鼻梁を眺めて、

(ウソツキ――あの時より今の方が ずっと キレイやわ)

「馳くん」
 と、呼んで「ん?」と不思議そうに顔を向けた輝晃の頬に、そっと唇を寄せた。


 >>>おわり。


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