清葉.結之段


 産声が聞こえた。


 「蓮翔」が改号されて、幾年かが過ぎた。
 清葉は新皇帝の手によりゆるやかに栄え、人々の生活もそれなりに安穏と過ぎていく。
 けれど、彼らは、数年前のあの治敬帝の死と、それに彩られた、多くの人々の犠牲の陰に何があったのかを、知らない……。
 七郎は。
 あのあと、カイを従え旅に出た。
 はなむけに会った時、彼は勝ち気に微笑んで、
「僕も外を知ろうと思ってさ。ちょっとした好奇心……ってヤツ」
 と、言ったものだ。
 芸人一座に戻った翠連は、今ではその一座の花形として月一の舞台に花を咲かせている。
「やっぱり表舞台に立つなら、舞台の上だな」
 最近会った彼は、そう鮮やかに笑った。
 玲希昂は婚約者と結婚したとのこと。
「あいつと暮らそう……なんて決心する酔狂な娘がいるなんてな」
 世も末、とその話を耳にしたとき、恒牙が肩を大仰にすくめて、苦笑いを浮かべたことを思い出す。
 同時に、その顔が悪意に満ちたものではなかったことも。
 そして、私は……。


*** ***


「かあたま……?」
 幼子が母を見上げる。
「何でもないよ。ちょっと……昔をね、思い出したんだ」
 父親似の人懐っこい瞳に、瑞は優しく頬を崩し、くしゃりと幼子の柔らかな髪をなでる。
 長く伸びた彼女の黒髪が、やさしく風になびいた。

 『あの時』、私の胸に産声が響いた。




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T EXT
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