2-0-序.忘れ草
■ 本編「月に棲む獣」の続編挿話です ■
この「雲に翳る月のように」は、 本編「月に棲む獣」の続きです。 大国「清葉」の皇帝に仕えていた女官・春陽と、 後宮を騒がせていた刺客・榛比。 皇城の根回しした手配書のため(?)に方々を流浪する二人は、やがて運命の場所「月山」に ……その手前であった、ちょっとした騒動のお話。
しかし、里に入った時点で春陽〔シュンヨウ〕も榛比〔ハルヒ〕もその気配を感じていた。
「 春陽! 」
か弱い風情の女が小刀を構えなおして、口角を上げた。飾り気のない娘に近い可愛い女がそんなふうに微笑うと、狐にでも化かされたような妖艶な雰囲気が立ち昇る。 『 いいえ、ちがうわ。ただの忘れ草……全部、忘れてしまうのよ 』
そうか。
廃墟と化した里に戻ってきた人影は、憎々しげに舌打ちをして夕闇に暮れようとする空とその下にある鬱蒼とした樹海を睨んだ。 下士官らしい二人と、深い傷を負った一人。 片腕を失ったひどくアンバランスな身体を両脇から支えて、二人の下士官は途方に暮れたように前を行く高官を仰いだ。 その彼は、いまだ怒りが治まらないと息巻いている。 「くそっ、あの男! 躊躇いもなく腕を切り落としよった!! 女集団に騙されたわ」 いまだ、大量に血を流し続ける一番の手練だろう男に目もくれずに、告げる。 「もう使い物にならん、捨て置け」 「し、しかし」 二人の下士官は、目をわずかに瞠って言いよどむ。 「旅程の邪魔だ。なに、死にはしないだろう」 根拠のない慰めに、ほどなく二人はため息まじりに「御意」を示した。いつ、この仲間と自分が同じになるか分からない。そんな哀れみの交じった顔を見合わせる。 と、急に気配がした。 ハッと身構えた時には遅く……彼女は、彼ら二人を押しのけて腕を失った男の傷口に鼻先を近づけて見入っている。 「 タイヘン! 」 言うや、自らの袖を裂いて縄とし、腕の付け根を強く縛って止血する。 「こっちへ運んでください。手当てします……応急処置ですけどしないよりはマシでしょう」 「……何者だ? 女」
訝しく訊く高官に、女はにっこりと笑って答えた。
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