企画2-B.菫さんのプレゼント。その後

■ 「龍の血族」の企画番外です ■
コチラの「菫さんのプレゼント。その後」は、
「龍の血族」のホワイトデー企画番外になります。
バレンタイン企画に続き、
ホワイト・デーの一幕……その後。
今回も、菫さんの仕事場オンリーのため、
朱美さんは名前だけの登場です。あら、残念(笑)。

 ホワイト・デー企画だった紳士服のファッションイベントが無事に成功をおさめた夜。
 『苑〔えん〕』の企画担当者と、その企画に携わったすべての関係者による「打ち上げ」が、開かれた。
 イベント会場の一部を借りた、ごく簡単な立食型のパーティで、誰ともなく集まったお菓子やら飲み物やらが無尽蔵に用意されたテーブルに振り分けられた。
 打ち解けた雰囲気の中、「一文字シスターズ」のひとり……篠響子〔しの きょうこ〕がパクリとおにぎりにかぶりつく。
「で、結局竜崎〔りゅうざき〕さんからのお返しは期待できないってワケよ」
「まあねー、妻子ある人だし」
「しかも、奥様にベタ惚れらしいからー」
「分かってはいたけど……ね」
「羨ましい、ね? なんか」
 お菓子とカンチューハイを手に、森早奈恵〔もり さなえ〕・一〔にのまえ〕つなみ・菅加世〔すが かよ〕・流瞳子〔ながれ とうこ〕と口々に言うと、5人合わせたため息が洩れる。

「ホント、羨ましいねえ……ベタ惚れなんて」

 しかもである。
 あの、物静かな竜崎菫〔りゅうざき すみれ〕が――ともなると。
「知ってる? 竜崎さん……奥さんのお返しのために、香水買ったんだって」
 加世が、こそりと言うと、
「え? そうなの?!」
 響子が二つ目のおにぎりを落としそうになりながら、聞き返した。
「うん。確かな情報よ。だって、水野さんが言いふらしてたから」
「うわーっ、ショック! 聞いてたけど、やっぱり奥さんには返すんだ?」
 つなみは、だんだんとテーブルを叩き悔しがる。
 が。
 早奈恵は、「あ」とぱっかりと口を開けていた。
「どうしたの? 森さん」
「うん、アレかな? と思って……」
「何?! なんか知ってるのっ??」
 迫る4人の友人に、早奈恵はタジタジとなりながらこくん、とひとつ頷いた。
「最後のリハの前に、――」

 その時のことを話すと、早奈恵はつなみに訊いた。
「確か、一さんも見て話してたじゃない?」
「えーっ? ウソ! まさか、あの時のアレ?! イヤー!!」
 ぐるんぐるんと短い髪をふり乱して、つなみは頭を抱えた。

 くすくすと笑う声が、彼女たちの背後でした。


*** ***


「楽しそうだね、「一文字シスターズ」は……何の話?」

「 竜崎さん! 」
 5人同時にふり返り、そこには話の渦中の人物がスラリと立っている。
 時には、自らもモデルになってイベントを開くだけあって背丈とバランスは素晴らしくよく、しかも色素の薄い瞳と髪がどこか幻想的だった。
「奥さんに、香水買ったって本当ですか!」
 響子が勢いづいて言ったことに、菫がびっくりしたように目を見開いた。
「水野だな……まったく」
「ははは、悪い悪い」
 ちょうど、後ろにいた「なぜか」打ち上げに参加中のイベント無関係者(むしろ菫のライバルに近い)・水野陽平〔みずの ようへい〕が悪気もなく反省の色もなくカラカラと笑った。
「本当のことなんだしさー」
「……そういう問題か?」
 ほとほと呆れたと顔をしかめる菫に、響子がさらに確認する。
「じゃあ、やっぱり本当なんですね……」
「ん。まあね」
 恥ずかしげもなく頷くと、一言呟いた。
「口実のためだし」

「口実?」
 不思議そうに自分を見る「一文字シスターズ」の面々に、くすりと口の端を上げて菫は唇に指をあてる。
「こっちの話。だから……」
 意味深に目を細める。
「あんまり、噂を広めちゃダメだよ」


*** ***


 はーっと、息をつくと響子は叫んだ。と言っても、内輪に聞こえる程度に……であるが。
「やっぱ、鈍いよ! 竜崎さん」
 ハートブレイクな友人たちに、訴える。
「……そこが、またいいんだけどねー」
「そうそう。とぼけたトコロがまたいいのよね、なんか」
「分かるー。見た目がアレだから、特にねーっ!」
「いいなあ、……奥さん」
 それぞれがそれぞれに呟いて、はぁと息を吐いた。

「――このあと、飲みにいこっか?」
「賛成!」
 と。響子の提案に、4人が同時に頷いた。



菫さんのプレゼント。 <・・・ fin.

T EXT
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