企画1-A.二月の決戦。side 菫
■ 「龍の血族」の企画番外です ■
コチラの「二月の決戦。side 菫 」は、
「龍の血族」のバレンタイン企画番外になります。
短編の方では夫婦としてのほほんとしている
朱美〔あけみ〕母さんと菫〔すみれ〕父さんの過去……
高校三年生の頃の話。
バレンタイン企画なのでそういう話です。
二月。
高野山駅の北口にあるアヤトリ人形前で、竜崎菫〔りゅうざき すみれ〕は佇んでいた。彼の通う府立高野山高校と、彼の彼女・会沢朱美〔あいさわ あけみ〕が通う彩伊〔さいか〕女学院とは降車駅が同じで非常に都合がよかった。
中学三年の冬に再会し、その冬に両思いになった二人は、悲しいかな学力に「愛」ではどうすることもできない 差 があった。
ここで、少しばかり(?)の朱美の名誉を守るならば、彼女の頭が大鋸屑〔おがくず〕でできているワケではなく……菫の方が、無法地帯的に良かったというコトだ。
そう、たとえば彼らが同じ学校に行きたいと万が一にでも考えようモノならば、柳ヶ丘中学校の進学指導の熱血先生のみならず、厳格な教頭やらおっとりとして見えるハズの校長までもが前にでて説得にあたったかもしれない。
さいわい彼らにそういう「学校泣かせ」な発想は浮かばなかった――。
というよりは、 公立一の進学校 として名高い高野山高校と頭はそれなり制服の 超絶 可愛い彩伊女学院が早期段階で「同じ降車駅である」という事実を掴んでいた、菫少年の勝利である。
思うに、彼は朱美と付き合う以前から、ソレを見越していた 節〔ふし〕 がある。
朱美と同じ学校に行こうとすれば、学校から執拗な邪魔が入るだろう、とか。
朱美が、かなりのミーハーだ、ということまで……とにかく、事細かに情報を収集し計算していた。
色素の薄い涼やかな瞳とサラサラの細い髪、一見物静かな菫は存外に用意周到で――内側は、饒舌〔じょうぜつ〕なまでの情熱家だった。
「彼女とかいるんですかー?」
アヤトリ前で立っていると、時々こうやって話しかけてくる可愛い女の子がいる。
「……え? いるけど」
涼やかな瞳を自然に笑みに変えて、菫は答えた。
わさわさと集団で声をかけてきた少女たちは、偶然にも朱美の通う彩伊女学院の制服である。
( そろそろ、来るかな )
と、少女たちの明らかな失望の眼差しを通り越して、菫は首を巡らせて辺りをうかがう。
*** ***
明るい紺色地のブレザー。左胸のポケットには彩伊〔さいか〕女学院のエンブレムが刺繍され、特徴のあるワンピース型のスカートが深い円を描いている。
独特の結びであるネクタイは臙脂〔えんじ〕と芥子〔からし〕色のチェック柄。端にあるツートーンのラインの色が学年を表していた。
で、今、目の前にいる女生徒の集団が緑のライン。
その向こうで腕を組んで仁王立ちしている彼女は、もちろん「朱」色だった。
「朱美」
少女たちは、朱美の存在に気づくと名残惜しげに「じゃあ……」と言って、駅の構内へと入っていく。
「菫さん」
「なに?」
めずらしくムムゥ、と難しい顔をして朱美が菫を仰いだ。
( ? )
「あー、その……可愛いとか、思ってたんじゃないの?」
口にしようとして、うまく言葉にできないというふうにモゴモゴと口の中を動かすと、朱美は最終的に目を吊り上げた。
本当は、もっと別の表情を作りたかったに違いないが。
にっこりと極上の笑顔で菫は言った。
「思ってたよ」
「ふーん、そーなんだ……やっぱり」
「うん。だってさ、可愛いだろ?」
「そうねー。って、ソレはわたしに訊くことデスカ? 菫さん」
律儀に自分でボケてツッコむと、朱美は笑った。
しかし。
「 ホラ。朱美が着ると、 脱がしたくなる くらいだし 」
と、菫は固まったように見える彼女にふと首を傾〔かし〕げる。
(おや?)
「――お、会沢〜?」
「はいっ?!」
硬直していた朱美が、背後からの声に素っ頓狂に丁寧な返事をしてふり返る。
「聞いたぜー、あの……ふごっ! がっ!!」
にこやかに近づいてきた男に、朱美は間髪入れずに走り寄り、革の学生鞄(彩伊女学院指定、硬質)を振り上げて顔面を叩〔はた〕き、次いで振り下げてトドメをさした。
「ちょっと、来て! 菫さんは待っててねっ」
ほぼ瞬殺に近い男をズリズリと引っ張ると、朱美は片手を上げて怒涛の唸〔うな〕りをあげて走り去っていった。
この時、 (いいなあ……)
などと、菫が相手の男を「羨望の眼差し」で見ていたことは、秘密である。
fin. ・・・> 二月の決戦。side 朱美 へ。
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