3−0.そして、ラブコールにはまだ遠い (日誌掲載日:未掲載)
『 生きてたの? 』
心底呆れたJの嫌そうな声に、セイリアは眉をひそめ……しかし、それが逆に彼女らしくて笑えた。
ピアスの通信機に向かって話す。
「悪かったな」
『べつに。悪かぁないわよ? 良かったんじゃないの』
JのJらしい激励だと、セイリアは思った。
「うん。良かった……んだと思う。俺はJに会えて」
『そ、そう?』
「KやQに会えて――良かったと思うよ」
『泥棒なのに?』
「泥棒だけど?」
互いにくすりと笑って、声を立てて笑った。少し寂しくて、そんなには悪くない空虚感。
『お? なんだなんだ? J。……ジャック?』
「はい、K。いろいろお世話になりました――これから、どうされるんですか?」
宇宙連邦軍の候補生とは言え軍人が、泥棒の予定を尋問ではなく訊くというのも、妙なモノだった。
『くっくっくっ、そうさな。俺たちは根無し草だ。とりあえず、おっかないトコロからはできるだけ離れるさ』
「そうですね。それがいいと思います」
すでに軍人と泥棒という立場になってしまった彼らにとって、このまま近い距離を保つのは互いにとって利益にはならない。通信もコレが最後になるだろう。
『ああ、そうだ。ジャック、あの 約束 は違えてくれるなよ?』
「約束?」
すぐには思い当たらなくて、セイリアは首を傾げた。
『レディを貰ってくれるという、あの 契約 です。プリンス』
「ああ」
思い出して、そんなことも言ったなあ程度に相槌を打つ。
『パパ! Qちゃん! 蒸し返さないでっ。ピー! そのまんま忘れてていいから。むしろ、忘れて!!』
あまりに必死なJの声に、意地悪な気分になる。最後の最後に、こういう約束もアリだろう。
( 自分は軍人で )
「なんで? 今度会えたら捕まえるよ。J」
( 彼女は泥棒なのだ )
『ばっ! 馬鹿にするなー!! 誰があんたなんかに捕まるかっ』
力任せに切られた通信は途絶えると、無味乾燥な音だけを残した。
一人、残された部屋でセイリアは息をついた。
「冗談だよ」
と、呟いてみる。小さなピアスに触れて、遠くつながっている彼らを想う。
たぶん、もう会うことはないだろう……。
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