蝉の声が夏の青空に響き渡り、それだけで気温が3度は上昇した気分にさせられる。
神経をザワザワと撫でるような感覚に思考が停止したのは、耳に届く蝉の声が五月蝿いせいではない。
目の前の理性がぶっ飛ぶ光景のせいだ。
休日の昼下がり、愛妻と二人で買い物に出かけた帰り道に立ち寄った公園。
風通りの良い木陰に涼を求め、人気(ひとけ)の無い茂みに座り静かな時間を過ごしていたのだが…暫くして俺は、目の前の最愛の女性の行動に視線を奪われ身動き一つ出来なくなった。
俺は安原 響30才。金髪にグレーの瞳、腕っ節が強くて、なかなかの男前の歯科医だ。
え?自分で言うなって?
しょうがねぇだろう?本当のことなんだから。
そして俺を放心させている張本人は、未来のカリスマパティシェであり、最愛の奥さんでもある安原 千茉莉。
その笑顔、その仕草一つ一つが、俺を魅了して止まない若干18才のピチピチの新妻だ。
ふわふわの癖毛に大きな瞳と愛らしい唇。その天使の微笑で俺を癒すただ一人の存在で、甘いものが苦手な俺が唯一喰うことのできるただ一つのSweetだ。
12才も離れていると、とにかく可愛くて、俺は奥さんに溺れっぱなしだ。
特に、最近は毎晩俺にたっぷり愛されているおかげで、グラビアアイドル級のナイスバディーに更に女性としての艶も増して、益々色っぽくなってきた。
自慢の奥さんが美人で可愛くて、普段は着痩せしているが脱ぐとスゲーって、夫としては超嬉しい事だが、その反面、巷(ちまた)の男どもの注目を集めるのでは無いかと心配でならない。
現に今も、意識がぶっ飛びそうな光景を目の当たりにして、理性と本能を繋ぐ糸が軋む音が聞こえている。
普段はベッドの上で俺だけに見せる官能的な姿はとてもじゃないが他人には見せられない。
18才には見えないくらい色っぽいし、とにかく仕草がエロ可愛いんだ。
あんな千茉莉を誰かに見られたらプッツンと切れて、そいつの目を潰してしまうだろうなぁ。
でもまさか…こんなところで千茉莉がその表情(かお)をするとは思わなかった。
周囲に人影が無いとはいえ、今の千茉莉を誰かに見られたら、俺そいつを殺しかねないな。
俺の思いとは裏腹に、無心にソレと格闘する千茉莉に、ゾクゾクと本能がざわめきだす。
やべぇ…身体が反応してきやがった。
人がいないとは言え、いつ誰が来るかもわからない公園の中で、しかも真昼間だ。
ここで我慢が効かなくなったなんて事になったら…ちょっとやベぇよな。
溜息とも吐息ともつかない細い息を吐きだし、必死に自制心を保とうとするが…。
視線は相変わらず、千茉莉から逸らす事は出来なかった。
さくらんぼのように色付く艶やかな禁断の果実のような唇から、チロリと覗く紅い舌。
先端を味わうように舐め、ゆっくりと根もとへ向かって舌を這わせるその官能的な仕草に、ゾクリと背筋を駆け抜ける感覚に肌が粟立つ。
茶色の癖のある髪がまるで綿飴のようにふんわりと動きにあわせてゆれ、伝いおちる白い液体を追いかけ舐め取ると、美味しそうにそれを咥える千茉莉。
その仕草に俺の中のオスが覚醒し、必死に舌を動かす愛しい妻に身体がどんどん熱くなる。
「ほら、ちゃんと咥えないと…。口元、漏れてきているぞ?ちゃんと飲み込めよ。相変わらず下手だな。」
「ん…んぅ…。」
その甘い声に反応して身体は更に熱くなる。
口元から零れ落ちる液体の流出を軽減する為に、愛らしい口に収まるソレをグイと更に奥へと押し込んだ。
濡れた唇が熟れた果実のように艶めかしく見え、僅かに潤んだ瞳が俺を見上げるその視線だけで、先ほど軋んだ理性がプチンと音を立てた。
流れ出す速さについてゆこうと、必死で飲み込む度に動く白い喉が、本能に火をつけ、身体の奥底から湧き上がる欲望が、一刻も早く欲しいと彼女を求めている。
一秒だって待てそうに無い感情に煽られ、すぐにでもベッドに縫いとめたくて、彼女の口からそれを一気に引き抜いた。
驚いて目を見開き、それからすぐに不満げに膨れっ面で見るその表情がまた俺の情欲を掻き立てる。
「あぁ…ん。どうして?」
そんな色っぽい顔しないで欲しいね。あんまりそそる仕草をされると余裕の無いのがバレちまいそうだ。
クールな仮面をつけて見せても、身体は隠せないほどに猛り狂っている。
これ以上この状態が続くと…やばいな。
今すぐここで…ってなってもおかしくないくらい、理性は既に玉砕している。
冷静を装っているのは、12才年上と言う僅かに残った最後のプライドの為だ。
「もうおしまい。早く帰ろう。」
「ええ?何、どう言う事?それ返してよ。」
「ダメ、これ以上お前がこれを咥えているところ見てたら、我慢できなくなる。」
「はぁ?」
未練がましく取り上げられたソレを見詰めて、不満をもらす彼女をグイッと抱きしめて、唇を寄せた。
濡れた唇に纏わり付く液体が滑(ぬめ)りを増し甘い香りを放っている。
蜜に誘われる蝶の如く、その可憐な唇を啄んだ。
「甘っっ!」
思わず顔をしかめ唇を離した俺に、冷たい一言を放つ千茉莉。
「あたりまえでしょ?アイスバーは甘いって決まっているの。響さんったら甘いの嫌いなくせに、アイス取り上げてまでキスすること無いじゃない。」
……お前の食い方がエロイから悪いんだろう?真昼間からすげー色々妄想しちまったじゃねぇか。
言っとくが俺は決してヘンタイでも妄想癖があるわけでもない。
だが…この食い方はぜってー“ナニ”を想像させるもんがあるって。
ああ?“ナニ”って何だって?んなもん自分で考えろよ。大人だろう?
「あ〜っ!ほらっ、また溶けてきちゃった。あたしこう言うの食べるの遅くてすぐに溶けちゃうんだから。邪魔しないでよ。」
お前なぁ、そんなエロイ食い方何処で教わったんだよ。こんな事だって知っていたら外でアイスなんかぜってー食わせなかったんだぞ?
まだ不満タラタラで取り上げたアイスを見ている千茉莉に溜息を付くと、ポイと既に原型を殆ど残していないアイスの残骸を投げ捨てた。
「ああ〜〜っ!何するのよっ。まだ食べ終わってないのよ?」
「ダメ…こんな誰に見られるか分からない所でアイスは食わせられねぇ。誰かにお前のそんなエロい表情(かお)見られたらどうすんだよ。」
「はあ?エロい?」
「…お前の食い方が俺を挑発してるんだよ。」
「なっ!…なによそれ?何でアイス食べちゃいけないのよ?」
…別にアイスを食うなとかそう言う問題じゃなくて…。
「アイスぐらい家でも食えるだろう?もう溶けてるし、蟻にでもやっておけ。」
「あーん!!あたしのアイスぅ。返してよ響さんのバカぁ。…っ!んんっ…。」
膨れっ面をして再び文句を言おうと動いた唇をもう一度塞いでやったが、それでも抗議の声は止みそうに無い。
重ねた唇を通して、バンバン苦情を言っているのが伝わってくる。
まあ、食い物の恨みは怖いらしいからな。
…特にこの未来のカリスマパティシェは甘いものに関しては、特に執念深い。
その情熱を全て俺だけに向けてくれると俺としては嬉しいんだがなぁ。
でもまあ、アイスごときで嫌われたら激凹みしちまいそうだしな。
しょうがない、この先のコンビニに寄って千茉莉の好きなアイスをしこたま買って帰るとするか。
ご機嫌の直ったところで、俺の身体もクールダウンしてもらわないと困るからな。
アイスで冷たくなった舌で、せいぜい頑張って俺の熱を下げてもらおうか?千茉莉。
長いキスで流石にクタリとした千茉莉は、ついに文句をいう事にも疲れたらしく、大人しく新しいアイスを買う事で同意してくれたようだ。
本人に言わせれば酸欠になって気力が無くなったという事だが、あれは絶対に俺の愛情たっぷりの熱〜いキスに感じた照れ隠しだと思う。
俺は勝利を確信し、ニッコリと千茉莉の弱い微笑で宣言した。
「大丈夫。お前が真夏の炎天下でも溶ける前にアイスを食えるように、俺が特訓してやるよ。」
すぐにその腕を取ってスタスタと歩き出した俺に、訳がわからないといった顔で小走りについてくる千茉莉。
余裕のある台詞とは裏腹に、今すぐに彼女が欲しくて、彼女の歩みに歩幅を合わせてやる余裕も無く、引きずるようにマンションに帰ると、玄関先で衣服を剥ぎ取った。
千茉莉が『特訓』という言葉の真意を知り後悔したのはそれから1時間後…。
その夜はご立腹だったが、その後アイスを食うのは随分上手くなったらしい。
まあ、全ては俺の教育の賜物だって事…。
『溶ける前にアイスを食べきれるようになりたい』という念願が叶えられた千茉莉だが…
協力してやった健気な夫に感謝してくれる日は…
……当分来る気配は無い。
fin.
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『大人の為のお題』より【歩幅】 お題配布元 : 「女流管理人鏈接集」
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