Free 1
「社、社長??」
怯えた声が部屋に響いた。
「どういうこと?部屋がないって。」
「ですから、あいにく週末でホテルの部屋が全部塞がってまして…なんとか空いていたのが、こちらのダブルの部屋だけだったんです。」
「それで?」
「もちろん、社長がこちらの部屋をお使いになられれば…私はソファをお借りします。それと、シャワーだけでも使わせていただけたらそれでいいですので。」
「……わかったわ。」
あたしは女だてらに会社経営をし、それも軌道に乗ってるから今のところ凄く充実した日々を送っていた。ただし…忙しすぎて、結婚や家庭どころか、彼氏や恋人すらも作る暇がなかった。
それでもホストクラブに行けば、若い男の子達と、それなりに遊べるし、賢い男の子はあたしを不愉快にしたりはしない。
だけど…
この男、秘書に任命したのは派遣会社からやってきた気の弱そうな細面の、少年のような面立ちをした男だった。
ノンフレームのめがねは少しずれてるし、スーツもなんだかサイズが合わない感じ?
だけど<ハードにもソフトにも強い男>は、現在わが社に導入したシステムのデジタル化には必要な知識をもっているはずだった。だけど、女性がほとんどのこの職場に投げ込むわけにも行かず、あたしの下で秘書として仕事をさせていた。
社長の秘書に粉かけてきて、仕事の手間をかけるような子はうちにはいないからね。
ただし、普通に放り込んだらもうなんとも庇い様がないほどヤラレテルわね。
この軟弱さじゃ…
おどおどした口調でも、仕事はきっちりやってくれる。
今夜は接待のあと、ホテルに宿泊するつもりでお酒を飲んだのだけれども、秘書に男を連れていると、変なセクハラはされにくいという利点もある。これで女性秘書を連れていたら、間違いなくアタシよりも被害にあってるわね。
「お先に失礼いたしました。」
化粧を落とすから先にどうぞと薦めると、バスローブを身につけた彼がバスルームから出てきた。
(うう、若い…)
胸元から覗く肌は意外と白い。ハリとツヤがあって、瑞々しいほど弾いてるわね。
それに比べて30代も後半に差し掛かったあたしじゃ、雲泥の差ね。
すね毛の少ないきれいな足を軽く開いてソファに腰掛けてガシガシと頭を拭いている彼を置いてあたしはバスルームに篭った。
襲われる可能性が、微塵もないほどのこのシュチュエーション。向こうはあたしの意思一つで首になりかねないので、変なことをしてこないだろうし、第一20代前半の彼とじゃ10以上歳が離れている。
(もう何ヶ月えっちしてないかな?)
前にホストの子と遊んで以来か…酔った勢いであの場にいた数人のホストの子のうち、どの子とそうなったのかも覚えてないけれども、あっちもお得意様へのサービスだっただろうし、擬似的でも満足と自信を与えてくれたのだから、それはそれでよかった。
でも、こんな状態で完全無視されるのも悲しいわね。
もしこれがただの同僚だったら、向こうだって多少どぎまぎしただろう。
ま、彼女がいなかったら、だけど、それはもう確認済み。
だって毎日仕事で午前様させてるんだから、夕飯ご馳走する時だって、一応気を使って聞いていたから。
「じゃあ、おやすみなさい。明日は朝早いから、モーニングコールセットしておくわ。新幹線に間に合うようにしなきゃね。」
「朝食は、2Fの食堂でバイキングが用意されてますが、どうされますか?」
「そうね、あたしホテルのバイキングって結構好きなのよ。行くわ。」
「わかりました、では食事が6時からですので、それまでに起きられますか?」
「そうね、5時に起きて支度するわ。女の化粧は時間がかかるものですからね。」
「そうですか?社長はそんなに濃くはされないじゃないですか?」
「それがテクニックなのよ。そのほうが時間かかるの。」
毎日若い男と一緒に仕事するからと、必要以上に化粧に力が入ってたのは事実だった。
どれだけ意識したって無駄だけどね。
ふと、考えると、いったい自分を相手にしてくれるのは、妻帯者だったりセクハラ親父だったり…そうか、利益を生むビジネスを介在させたものだけなんじゃないだろうか?
(それって寂しいなぁ…)
「くしゅんっ!」
夜中に鼻水をすする音と共に聞こえた派手なくしゃみ。
「大丈夫?」
「は、はいっ、大丈夫です…ちょっと冷えてきちゃって。」
「もう一枚お布団あげたいけれども、そうするとあたしまでなくなっちゃうのよ。」
どうしようかと、悩んでいると、すぐ側まで毛布に身体を羽織った彼がベッドに近づいてきた。
「あの、社長、その…隅っこでいいので入らせてもらっちゃいけませんか?」
「ええっ!!?な、なに言ってるの?」
「だから、寒いんですよ!どうしてもソファじゃ足出ちゃうし…ダメですか?」
「普通ダメに決まってるじゃない!!」
「このままじゃ明日風邪ひいてしまうかもしれない…そしたら、あのシステムの構築はストップしちゃいますよ?」
それでもいいのですかと脅してくる。
(な、なによ…って言うか、どうしよう?大人の余裕で受け入れるべき?)
「私が寝込んだら3日は作業遅れますけど?」
「わかったわ。」
そう言うしかなかった。
Free 2
(ん?)
背中になにかが触れた。
(ええっ??)
隅っこに入ったはずの彼があたしの背中にへばりついている?そしてその手がぐるりと回ってあたしをそっと抱きしめた。
「ちょっと!!」
眠れるはずがなかった。あたしだって女だから…こんな、きれいな男の子と一緒で緊張もするわよ。もちろんいつもは、まったく興味がないって顔で対処させてもらってるけど。
だってそれが社長でしょ?
飛び起きたあたしの眼下には長いまつげの寝顔。
(か、かわいい…)
「んっ…」
「きゃっ!」
彼女と間違いでもしてるのだろうか?あたしの腕を引き寄せてむにゃむにゃと寝言交じりの声を出しながらあたしをその手中に収めた。
(だめだ、寝ぼけてる…)
イヤじゃないけど、これじゃあたしが辛すぎる。そう感じて、あたしはそっと身体を引き離した。
すでに彼の身体はベットの半分からこちらにはみ出てる。
(な、なに??)
彼の手が器用にあたしの身体をまさぐり始めた。あたしは備え付けのパジャマを着ていたから、その裾から器用に手が入り込んでくる。
いつも見てた、あのキーボードをはしる長い繊細な指先が…
想像するだけで体が震えそうになった。だけど、これは、ダメ。
必死で身体を離して、彼の身体を押しやってベッドの端に動かすけれども、まるで無意識のようにこちらに身体を寄せようとしてくる。
(もう!こうなったら…)
あたしは立ち上がってソファにかけられたバスロープの腰紐を取るとベッドに戻り、ベッドサイドのスタンドと彼の両手をそっと縛ってこちらに来れないようにした。
(これって…すごい絵だわ)
ロープに縛られて身動きも出来ない美青年。
(涎でそう…)
女も年齢いくと平気でこんなことしちゃうのかな?
経験は決して多くない。何よりも仕事を優先してきたから。
(寂しい人生だよね。)
この子ぐらいの歳の時も、飾らず、必死で働いて資金貯めて、今の会社を興そうとしていた。あの頃の自分ならこんなシチュエーションも絶対ありえない。
「んんっ?な、に…」
(あちゃ、目を覚ましちゃった?)
「えっ、なんなんですか、コレ…社長、まさかこんな趣味あったんですか?」
「ち、違うわよっ!!アナタがやたらくっついてきて、その、触るから…」
「あ、ああ…すみません。寝ぼけてしまったみたいで。」
「やだな、彼女と間違えたりしないでよ?」
「間違えませんよ、僕は夢の中でアナタに触れていたから。」
「え?」
「ほんとですよ、ほら、こんな格好させられて、しっかり元気に目を覚ましちゃいましたよ?」
そういって自分の足で布団を剥いで見せた。
「もちろん責任とってもらえますよね?僕は両手がこんなにされてたら、自分でスルコトも出来やしないんですから。」
「な、なんでっ、あたしが…??」
「じゃないと僕、言わないといけないじゃないですか?社長に手を縛られてやらしいことをされましたって。それともセクハラで訴えてもいいんですか?」
「何言ってるの、先に触ってきたのはあなたのほうでしょ?」
「でも、きっと僕の腕には赤い痣が残ってますよ。こうやって縛られたあとが…」
「うっ…」
どうしよう?責任とるって…することだよね?
「はやく、僕のパジャマのパンツ脱がせてもらえませんか?」
悩んだ末、ズボンに手をかけた。彼が腰を浮かせたので、すんなりと降りたそこには、ボクサーパンツを硬く押し上げた彼のものが、確認できた。
(まさか、あたしで、興奮した?)
そう思うだけで嬉しくなってしまった。
「触って…そう、んっ、気持ちいいです。ね、そのまま取り出して?」
言われるままにしてしまう自分に驚いていた。
「こ、こんな…」
「すごいでしょ?アナタが悔しそうにしてる表情を見てるだけで、こんなになっちゃったんですよ?さあ、責任の取り方わかりますよね?」
その甘い誘いにあたしは逆らえなかった。
(もうやけくそよ!どうせあたしなんか、こんなことでもないと相手にされることなんかないんだわ!だったら楽しんでやろうじゃないの。彼だって、きっとどんな女でも出来ればいいんだ わ。そうよ、だって言うじゃない?例え相手がこんな年増のおばさん社長でも、相手にしたらお小遣いでも貰えると思ってるんだわ。)
彼のものを手でしごき、舌を這わせ、口に含む。
あまりやったことがないから下手なはずだけど…
硬さが増してくる若い彼のものに、あたしのほうまで潤んできてしまう。
「ズボンを脱いで、あなたのも…こっちに向けてください。」
体勢を入れ替えると彼の舌が伸びてきて、下着の上から恥ずかしい部分を舐め上げられ、あたしは思わず身体を離した。
「これじゃアナタに触れられない…社長、これをはずしてください。」
あたしは迷った挙句、彼の拘束を解いた。
「ふう、コレで、アナタにをちゃんと触れることが出来ますよ。」
Free 3
手首をさすりながら、こちらを見る彼は…いつもの彼とはずいぶん違っていた。
「ほんとに素直じゃないんだから、あなたは。」
「な、なにを…」
彼はあたしの腕を引き、ベッドに身体を固定すると、今度は両腕を拘束した。
「ちょ、なにするのよっ!」
「欲しいって言わせてやる。」
「は、はぁ?」
コレがあの軟弱な青年?
「上手くだまくらかして、同じベッドに入って、俺のテクで陥落させる予定だったのに、オモシロイことしてくれるよな?」
「なに…を?」
「あのまま俺に抱かれてたら、優しく、最後まで、いつもの気弱な男の振りしてあげたのにさ…おもしろすぎるんだよ、あんた。」
「ち、違う人?」
あたしの見当違いな問いに、またまたウケていた。
「同じに決まってるだろ?わざわざあんたの会社狙って、派遣されて来てやったのに…こんな眼鏡かけて、おとなしぶりっこして、かなり我慢したんだぜ?どうせ、オレのコトなんか覚えてねーくせに。」
「え?え?」
「一度寝たホストなんて覚えてない?」
(ま、まさか…あの時の?)
「あの時のこと、全然覚えてないなんてさ。その調子じゃ、昔あんたに助けられたコトも覚えてないだろ?」
「助けた?」
「ああ、繁華街で人相の悪いのにからまれてる時に、あんたオレのコト助けてくれたんだよ。まだオレが中坊の頃だったけれどもね。相手に自分の弟だからといって金渡してさ、かっこいい啖呵切ってたよ。凄くかっこよくって、オレは憧れてた。その彼女が自分の働いてるホストクラブに来た時は驚いたよ。だけど、やっぱり覚えてなくって…。お礼を言おうと思って、最後まで付き合ってるときに、アナタが…泣いたんだ。」
「あたしが、泣いた?」
信じられなかった。あたしが泣くなんて…でもあの後、妙にすっきりしてたのは覚えている。
「ああ、寂しいってね。だからオレが側にいるからって、抱いたのに…。目が覚めたらアナタはもう部屋にいなかった。アレ以来店にも来なくなった。だから、こうやってアナタの会社に潜り込んでチャンスを待ってたんだよ。もう一度抱けば思い出すだろうって。」
(うそっ??あの時の?でも、覚えてない…あの時も久し振りのえっちだったし、酔ってたし、訳わかんなくて…)
「欲しいって言うまで責め尽くすし、思い出すまで抱くから。朝のバイキングが食べたかったら、さっさと落ちないと。このまま寝かせてあげないよ?」
「そ、そんな…」
「言って?オレが欲しいって、オレがイイって。オレ、アナタの涙を見てから、もうおかしくなっちまったんだ…。あんたしか見えなくて、あんたが来なくなってから店も辞めて、ずっとこの付近でバイトしたりしてたんだ。アナタを手に入れるためだったら何でもするよ?」
カレの声が耳元で掠れた。
「はぁうん…うぐっ、もう…だめっ…」
「欲しいって言って?オレのが欲しいって…俺が欲しいって言えよっ!」
「おねがい…もう、」
「もう、なに?」
「ちょうだい…」
我慢できないほど攻め立てられ、イク寸前まで持ち上げられては緩められて、もう気が狂う寸前だった。身体はとうに狂っていたし…
「あげるよ、コレでアナタはオレのものだからね?」
深く奥まであたしを埋め尽くしたソレは、しばらくすると激しく突き上げはじめた。
「ごめん、我慢聞きかない…アナタ、こんな時だけ反応が初心(うぶ)すぎるんだよ。」
「ひぃっ…んっ」
ベッドが軋むほど攻め立てられ、体が壊れるほど彼自身を身体に刻み込まれた。
「起きてください、社長」
呼ばれて目を覚ます。
目の前には、昨夜のバスローブ姿の秘書が、あたしの顔を覗き込んでいた。
「シャワーでも浴びてこられますか?早くご用意なさらないと朝食に間に合いませんよ?」
「え?ええ…」
(夢だったんだ…
身体を起そうとすると、妙な倦怠感があたしを襲った。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ、大丈夫よ。」
生々しい夢だったと思う。体中に昨夜の感覚が残っているようだった。
「無理させましたからね。わかりました、シャワーをご一緒して、洗って差し上げますよ。」
「は?」
いきなり抱き上げられるとバスルームに連れ込まれた。
「お湯を張ってますから、どうぞ?」
そう言ってあたしをパジャマごと湯船につけると自分もバスローブを脱いで入ってきた。
「なにするのっ!」
「洗ってあげるんですよ。」
「やめてっ!」
「また忘れたって言うの?」
(ということは、やはり、昨夜の出来事は事実?)
「いい加減認めてくださいよ。僕のコト好きだって。ずっと熱い目で見てたでしょ?僕はずっと前からアナタに夢中なんだから、さっさと認めて、もっとイイコトしましょ?」
昨夜の表情を取り戻し、悪魔の微笑を浮かべた秘書がそう言ってアタシのパジャマを剥いでいく。
ああ、あたしはもうずいぶん前から、堕ちてたんだ。
諦めて、両腕を伸ばして彼の顔を引き寄せた。
「ね、だったら、キスしなさいよ。好きだって囁いてみせてよ。」
「アナタが望むなら、何度でも。」
その日は朝食を口にすることは出来なかった。
fin or ? 続きはご自由に〜w
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