私が、『優哉に惚れてる宣言』をしてから、この学年…いや、この学校全体を通しても私たちを知らない者はいなくなった。 元々、学校一!とは言わないまでも、この学校内では『可愛くて綺麗な子』で上位に名前があがる私、綾瀬捺(あやせ なつ)と、真逆の意味でカナリ有名な、岡崎優哉(おかざき ゆうや)が付き合ってると言うのだ。 しかも、惚れたのは優哉ではなく私ときた。 こんなオイシイ話を放っておくヤツはいないだろう。 『可愛くて綺麗な子』と、暗くてキモくてダサいと噂の『暗ダサキモ男』のカップル。 みんなこぞって私たちの事をこう騒ぎ立てた――――美女と野獣カップル誕生。と… 一部の人間の間では、この関係がいつまで続くかと言う賭け事なども流行り出しているらしい。 優哉が野獣ですって? 私たちの関係がいつまで続くかですって?? ホント…失礼極まりないっつうの!! 見た目だけで判断すんじゃねえよ。と、言いたいね、私は。 学校でこそ、『暗ダサキモ男』と呼ばれるような風貌だけど、優哉は実は、精悍な顔立ちをしていて頭も良くて、運動神経も抜群で、おまけに英語はペラペラだし、抜群の歌唱力を持っている。 そんな彼の姿を知ったならば、誰一人として「野獣」はもとより、「暗ダサキモ男」と呼ぶ人間さえもいなくなるだろう。 人によっては、「王子様♪」と、呼ぶヤツも出てくるかもしれない。 では、いなくなると知りつつ公に公表しないのは何故か… 答えは簡単! 私が嫌だから、だ。 いや…優哉も裏でバンド活動をしている手前、その姿を知られるとマズかったりもする。 優哉の事を、『YU!』と呼ぶ、熱狂的ファンがいるから。 だから、学校では相変わらず優哉は、『暗ダサキモ男』と呼ばれている。 だからといって、当の本人は全然気にもしていないし、私も気にしていない。 だって私は岡崎優哉を丸々ひっくるめて好きになったんだから。 だから、学校でも構わず私は優哉に引っ付く。 そして優哉も私を愛しげに抱きしめてくれる。 ひと目も憚らず、バカップルぶりを発揮している今日この頃だ。 あまりにも堂々とイチャつくもんだから、最近ではこの学校の名物にもなりつつある。 その最大の見物スポットは、お昼休みに訪れる。 いつものように、裏庭に設置されているベンチに並んで座って昼食を取っていた私たち。 教室に沿った廊下から見下ろせるこの場所は、チラホラと私たちの様子を楽しむように、窓から見物人が顔を出している。 私はそれらを視界の隅に捉えながら、持っていたサンドイッチの最後のひとかけらをパクッと頬張った。 「はぁ…もう。鬱陶しい…」 「ん?どうしたの、捺」 「だって、人の恋路を面白がって見てんだもん…失礼だと思わない?」 視線をチラッと窓の上に向けてから、拗ねたようにそれを優哉に戻すと、クスクス。と、小さな笑い声が返ってくる。 「別に、気にしなきゃいいじゃん。見たいヤツには見せておけば」 「えー!やだっ」 「そう?逆に見せ付けてやればいいんじゃない?僕たちはこんなにラブラブなんですーって」 そう言って突然私の肩を引き寄せて、頬に軽くキスをしてくるもんだから、あん、もう。と、思わず声が漏れてしまう。 それにまた小さく笑いながら、彼からの悪戯はそれでは済まずに、更に頬から耳朶へ、耳朶から顎のラインへと唇が移動する。 まるで、捺は僕の女だ。と、主張するかのように。 「んっ…もぅ…優哉っ…みんな見てるってばっ…んっ、くすぐったいってばぁ…」 「クスクス。こんな所で色っぽい声出して…キスしよっか、捺。あの場所からなら捺の色っぽい表情も遠くて見えないだろうし?みんなに見せ付けちゃう?」 ときに優哉のこの色っぽい声は罪だと思う。 こんなセクシーな声色(こわいろ)を使って耳元で囁かれた日にゃあなた…こんな公衆の面前でもキスしてもいいかな?なんて思ってしまうのだから。 自然になってしまう、愛しい人を見る時の目… 何かを訴えかけるような、上目遣いで優哉を見上げると、前髪の奥から覗ける視線と絡み合う。 その奥にある、私のお気に入りの青みがかった綺麗な瞳を見つめるように、ジッと視線を交えていると、フッと彼は綺麗な笑みを浮かべて頬を優しく撫でてきた。 「ヤバ…本気でキスしたくなってきた」 「優哉…」 「捺のこの表情には敵わないな…場所変えよっか、捺」 「え…場所って?」 食べ終わったゴミを入れてある袋を持つと、優哉は私を促すように立ち上がる。 そして、私の問いかけに対して、とんでもない返事をしながら歩き出した。 「捺を襲える場所って事」 へぇ…襲える場所があるんだ………って、襲える場所ってなに!? 今日のショータイムは終りなのかと、窓から身を乗り出して、残念そうな表情を浮かべて私たちを見送る視線を背後に感じながら、私は優哉に手を引かれて歩いていた。 どこに連れて行かれるのかと不安げな表情の私と、鼻歌交じりに楽しそうに歩く優哉。 そんな私たちがやってきたのは、裏庭から少し離れた場所に建っている旧校舎。 今、私たちが教室として使っている新校舎が建てられてからは、この旧校舎の一部は吹奏楽部などの部室として使われている。 この時間のこの場所に生徒達がいるハズもなく、不気味なほどに、シーンと静まり返っているこの建物の中に、優哉は臆する事無く、ずんずんと中に入っていく。 「ねっ…ねぇ、優哉?こんな、勝手に入っちゃマズいんじゃないの?私たち部活してないんだし…」 「ん?心配しなくても大丈夫だよ。一応僕は部活に入ってるし、部室の鍵も持ってるから」 「え…嘘!優哉、部活入ってたの?」 「うん、一応ね。部活動はしたことないけれど…」 そう言いながら、優哉は2階の一番奥にある、小さな小部屋の前に立ってニッコリと笑いかけてくる。 ふと見上げると、「音楽準備室」と書かれた、古いプレートが目に映った。 知らなかった…優哉が部活に入ってただなんて。 でも、音楽準備室を部室代わりに使ってる部活って一体… そう疑問に思いつつ、鍵を開けドアを押し開いて中に入っていく優哉について中に入ると、目の前に大きめのソファと、一人掛け用の椅子が数個、脇には落書きがしてある黒板が目に映る。 背後で、カシャン。と鍵が閉まる音が響くのを耳に聞きながら、私はゆっくりと部屋の中を見渡す。 「ねぇ…ここって何部の部室?」 「軽音楽部」 「え…うちに軽音楽部なんてあったっけ?」 「うん、あったよ?僕が1年の時に3年の先輩が2人しかいなくて、その先輩が卒業してしまってからは、部員は僕一人。今年の部員集めも全然しなかったから増えてなくて。でも、それでも一応は認可がおりてるから、僕は立派な『軽音楽部の部長』ってワケ」 なんていい加減なんだ…うちの学校は。 部員が一人しかいなくて、全く部活動もしていないヤツに、こんな個室を分け与えてるだなんて。 あり得ねえ… 呆れて思わずため息を漏らす私の様子に、クスクス。と笑いながら、優哉は目の前の大きなソファに座って私を見上げる。 「おいで、捺」 その声と、私の為に広げられた優哉の腕に引き寄せられるように歩み寄ると、腕を掴まれて引っ張られる。 私の最近の定位置…優哉の膝の上。 一番初めに、この膝の上に座った時に感じた嫌悪感。 当然の事ながら、今じゃ全くその欠片も感じることはなくて、逆にあんな事を思った時があったなんて信じられないくらいに、今の私はここに座ると落ち着いてしまう。 優哉の片腕が私の腰にまわり、もう片方の手が私の頬に触れる。 そして、私は優哉の首に腕をまわして、ジッと彼を見つめる。 「ここなら気にせず捺とキスできる…キスしてよ、捺」 「クスクス。ちょっとだけだよ?」 「嫌…いっぱい」 そう囁き合いながら、ゆっくり重なる2人の唇。 自分の唇に、優哉の温かくてぷっくりとした心地よい感触が伝わってくる。 この唇の感触が私は好き。 全てを忘れ去ってしまいそうなほど、気持ちがいいから。 「捺…好きだよ」 「私も…大好き…」 啄ばむようなキスから、舌を絡め合わせるような深いキスへと変わっていく。 頬に添えていた優哉の手が後頭部へとまわされて、更に口内奥深くを舌でかき回される。 こうなると、もうダメなんだ…私。 何も考えられなくなって、優哉から与えられる刺激にだけ身を委ねてしまいたくなる。 うっとりとした気分でキスに酔い始めた頃… キーンコーン、カーンコーン… 遠くの方で響くチャイムに、ビクンっと体が震える。 「んっ…優哉…チャイム鳴ったよ?早く戻らないと…授業はじまっちゃう…んっ!」 「無理…止められないから…」 そんな…ダメだって… その言葉は私の口からは出てこなかった。 悔しくなるほど、優哉に触れられると無条件に反応してしまう私。 このキスでさえ息が上がり始めている私に、追い討ちをかけるように優哉の手がスカートの中に伸びて内腿を撫でてくる。 「こんなにも捺が欲しいって思ってるのに、僕が途中でやめると思う?」 「でもっ…」 「クスクス。心配しなくても、ここはご丁寧に準備室でも防音効果があるからね。多少声が大きくても大丈夫だよ?」 そんなこと、誰も心配していぬぁい!! そう反論しようとしても、熱を帯び始めた私の体はおさまってくれそうになくて。 再び唇を重ねられ、優哉の舌が口内を蠢き、唇を吸われると、体が自然に反応を示してしまう。 こうなる事を分かっていたかのように、優哉はゆっくりと私の体をソファに押し倒す。 首筋に優哉の唇が這うと、急激に肌が粟立つ。 優哉の綺麗な指が下着の上から潤いはじめている秘部を撫でると、更に溢れるようにそこが潤う。 「こんなに濡らして…捺も僕が欲しくてたまらない?」 そんな色っぽく意地悪な声が耳元から聞こえ、優哉の手が下腹部から下着の中に入ってきたかと思うと、スッと一気にそれを引き抜かれる。 途端に露になった肌に空気が触れ、充分に自分が受け入れ態勢に入っている事を実感させられてしまう。 どうやら今日の優哉は、いつもにも増して意地悪く攻め込むつもりらしい。 また再び唇を塞がれ、それに翻弄されながら、カチャカチャっとベルトを外す音が耳に届き、充分に潤いきった秘部にあてがわれる優哉自身。 そのままゆっくりと中に押し入ってきて、入り口付近で意地悪く出入りを繰り返す。 「んっ…あっ…やっん…優っやぁ…」 「くっ…相変わらず気持ちよく締めてくれるね。捺は…ここからどうして欲しい?」 「どう…って…あぁんっ…」 クチュクチュっと、繋がる部分から卑猥な水音を洩らしながら、優哉は焦らすように完全に中には入らずに際どい部分で律動を送る。 「早く言ってくれなきゃっ…僕一人でイっちゃうよ?今日はゴムも着けてないから、早めに出なくちゃいけないしね…どうして欲しいの、捺?」 「そんなっ…言えないっ…てばぁっ…あっ…やっ…んぁんっ…」 「そう?じゃあ…僕だけイっちゃおうかなぁ…」 そんな意地悪な声と共に優哉は覆いかぶさってくると、奥深くに進める事はせずに律動を早め出す。 どうしてもこの男は、その先を私に言わせたいらしい。 恥ずかしくてだんまりを決め込む私に、優哉は更に胸を弄ったりしながら追い討ちをかけてくる。 「ねぇ、捺っ…いい?もっ…イッちゃいそ…くぁっ…ぁっ…」 「あっ…やっ…ダメっ…優哉ぁっ…」 「ん?ダメ?…じゃあ言ってよ、捺。僕にどうして欲しいのかって…」 「んもーっ…意地悪っ!!」 「クスクス。捺にだけね?ほら、言って…捺」 も…負けた。 私は真っ赤に頬を染め上げながら、小さく囁くように声を絞り出す。 「ちゃんと…奥まで…して?」 「奥まで僕が欲しいの?」 「……………ん」 そう、コクンと小さく頷くと、どのくらい?と、少し奥に進んでから、更に意地悪く囁いてくる優哉。 中途半端な位置で止められて、思わず自分の腰が動いてしまう。 「いやん…もぅ、優哉ぁっ」 「クスクス。なあに?捺」 「ちゃんと言ったじゃない…もぅ、意地悪しないでよっ」 「だって、捺が可愛いからついつい…」 ついついじゃないってば! 「もっと奥がいいの?捺」 「んっ…もっと…ぁっ…んっ…」 「…もっと?」 「もっと…んっ…」 そんな甘い言葉を視線を絡ませながら交わしつつ、徐々に律動を繰り返しながら奥へと優哉が進んでくる。 これはこれで結構な刺激になって、そこまで攻められてもいないのに、次第に脳が霞み始めて自分の果てが近づいてくるのが分かる。 「あっ…優哉っ…んぁっ…気持ち…いい…」 「気持ち…いい?…んっ…すごい、今の顔、色っぽくて綺麗だよ…くっ…ちょっと意地悪しすぎちゃったかな…僕の方が余裕なくなって…きたっ…ヤバイ…ホントにイキそっ…」 そう、切なげな声を私の耳元に響かせつつ、優哉は一気に奥深くまで這入り込んで突き上げてくる。 「あっ…やっ…ダメっ…あぁぁぁんっ!!」 「ぁっ…なっ…つ…っ!!」 それまで焦らされた分、一気にポイントを突かれて、ここが学校である事も忘れ、大きな甘い声を響かせながら、私は優哉の頭を抱えてあっけないほどに果てを迎えてしまった。 そして程なくして、スカートがたくし上げられて、露になった自分の下腹部に、優哉の色っぽく吐き出される息と共に温かい彼のモノが広がるのを感じた。 「捺…大好きだよ」 そう、甘く囁きながら優哉が私に一つキスをする。 「私も…大好き」 私もそう微笑んでから、彼に一つキスを返す。 それから引き寄せられるように、お互いの唇を啄ばみ、重ね合う。 体を重ねたあとの、優哉の腕の中にいるこの空間が私は何よりも好き。 優哉が私の事を好きでいてくれて、私もまた優哉の事が好きなんだと感じられるから。 ゆっくりと唇を離し、私が抱え込んでしまったせいで、乱れてしまった優哉の髪をそっと指先で梳く。 いや…元々寝癖で乱れてはいたけれど。 前髪をかきあげると、露になる優哉の整いすぎた顔立ち。 私が髪を梳くたびに、気持ち良さそうに私のお気に入りの青みがかった瞳が細くなる。 私はそんな学校では私しか知らない綺麗な顔をジッと愛しげに見つめた。 こんなカッコイイ優哉を掴まえて「野獣」だなんて失礼しちゃう。 どっからどう見ても王子様でしょ、コレって。 ま…でも。 それは私だけが知る特権なんだから、誰にも教えてあげないけれど。 野獣は私だけの王子様ってことで。
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