White Nothingness


raison detre
■著作権は、雛瀬智美さまに帰属しています■
こちらの 「White Nothingness」 は、「raison detre」の管理人さまである
雛瀬智美さまが2006年の年明けに際しまして、フリー配布されていた作品です。
「Pleasure,Treasure」というシリーズの、大学時代編での彼女と彼。
関西弁の彼が、むっちゃカッコいいのです(>▽<)!
智美さん、ありがとうございます。そして、これからもよろしくっ。



 ずっと一緒にいたいと願った人と共に迎えることができた聖夜。
 カーテンの隙間から零れる朝の光の眩しさに目を細める。
 ベッドを抜け出してカーテンを開けると
 すべてを塗り替えるような白が目に飛び込んできた。
「綺麗」
 去年のクリスマスは、涼ちゃんと伊織と三人でクリスマスパーティーしたんだ。
 涼ちゃんは内心二人きりがよかったんだろうけど、
 薫さんと別れたばかりなのにけじめついてない気がしたから、断固三人で!
 と主張した。伊織は、二つ返事でOKしてくれた。
 友達三人での賑やかなクリスマス。
 カラオケ行った後、私の部屋に集まってケーキを食べて、楽しかったな。
 今年は、恋人として初めて過ごすクリスマスイヴ。
 こういう二人きりって何だか照れるじゃない。
「くしゅん」
「寒いんやろ?」
「へ、平気」
 すぐ隣りには涼ちゃんがいる。
 シーツを被って巻きつけてるだけの格好で。
我に返ると照れるからどうにか平静を保とうと必死だけど
 それが表に出てるかは自信がなかった。
「雪の上に光が降りてるみたい」
「あの白が反射してるから余計明るいんやな」
「ひゃあ」
「ん?」
「だって……」
 もごもごと口を噤んだ。
 何だそんなことかと言われるに違いない。現にもう笑われているもの。
 肩がふいに触れて心臓がどくんと跳ね上がったのだ。
 昨夜……いやほんの数時間前までの情熱的な時間が
 まざまざと蘇って、頬が火照り全身にまで火が灯っていく気がした。
 額、頬に唇が降りてきて首筋にちくりと甘い感覚。
「りょ……うちゃん」
 あの波に攫われる予感。
 どきどきとうるさく鳴る心臓は、彼に再び愛されることを待ち望み
 期待しているから。
 ひょいと抱えられて、ベッドの上に横たえられる。
 気づけば自分の頭の横に涼ちゃんの頭があって、耳元から首筋に淡い熱が走る。
 ゆっくりと誘われていく。



 眠いなんて言ったら子供扱いされるよね。
 だけど眠い。お腹いっぱいな上にアルコールまで摂取しているんだもの。
  二人で食べきるにも大きいサイズのケーキをしっかり平らげ、
 シャンペンまで飲み干してほろ酔い加減で、仄かに頬を染めていた。
 私の部屋より幾分広い涼ちゃんの部屋にて、クリスマスパーティー。
 口いっぱいにチキンを頬張り、頬に生クリームまでつけた姿で、
 涼ちゃんがにっこり笑う。
 こちらを見てつんつんと指を指している。
「何が言いたいの?」
 ぐいと引き寄せられ、顔と顔が接近する。
 唇が涼ちゃんの頬を掠めていた。
 触れてしまったら開き直るしかない。
 そのまま唇を押付けて、クリームを舐め取ると、涼ちゃんはえらく満足気に私の髪を撫でた。
「来年はもっと積極的になってくれることを期待」
「無理」
「俺はこんなに積極的に愛を示してるのになー、
 恥ずかしがらずに素直になろな」
 唇が奪われる。生クリームの甘い匂いが広がる。
 イチゴの甘酸っぱい味なんてとっくに消えていた。
 絡められた激しい熱に、翻弄されていく。
 この行為に夢中になる。
 必死で涼ちゃんのセーターの袖を掴んだ。
 二年前は、こうして涼ちゃんといる未来を想像できただろうか。
 友達ではなく恋人として。
 兄のように頼ってしまったり、
 情けない姿に一緒にいて支えてあげたいと思ったり、
 とことん飽きない。かっこよい所もあればへたれだったりする。
 色んな面があって面白味があるからずっと一緒にいたいって感じるんだ。
 過去を回想している隙に、涼ちゃんが迫ってきていた。
 いたって真顔で、顎に触れ、私を奪い去ろうとしている。
 着ている物から心まで全部。
「ちょっ……」
 望んでいるのに抗ってしまうのは、好き勝手に
 振舞われることにストッパーをかけているってこと。
 なけなしのプライドと意地で、嫌がってみせる。
 腕に引っかかっているだけで着てないのと同じの衣服に顔を真っ赤にしながら上目遣いに睨んだ
 いつもよりも幾分強引な様子に一瞬怯むけれど、すぐにペースを取り戻す。
「寒い!」
「すぐ熱なるわ」
「ん……っ」
 再び濃厚な口づけ。
 腕を掴まれ身動きが取れない。
 彼は私を見下ろしていた。
 視線が降りている場所は考えたくない。
 身長差の所為で、ちょうどいい位置に来るのではないかと思い至った。
「……りょ、涼ちゃんのえっち」
 敏感な場所に火が灯る。
 そこから全身へと広がる熱。
 自然と濡れてしまう声に、涼ちゃんは満足そうに笑った。
「すみれも同罪やろ」
「な、なんで」
 ニヤリ。口の端を持ち上げる涼ちゃんを引き剥がそうと試みるが
 無気力の抵抗では、太刀打ちできない。
 だって嫌じゃないから。
 悔しいけど、身も心も悦んでる。
 どんなに心地よい熱を与えてくれるか知ってるから。
 彼が欲しがってるのと同じで、
 私も欲しがってるってこと見抜かれてるから
 いつだって翻弄されてしまう。
「悪いな、董子。そんなとろんとした目されたら逆効果や」
 耳元で囁かれた涼ちゃんの声は通常の100倍甘く聞こえた。



「愛してる」
「俺も董子をめっちゃ愛してる」
 強い引力で引き寄せられて、背中に爪を立てる。
 確かにすぐ熱くなった。
 これはずっと醒めない熱。
 朝が来ても、この恋が続く限り。
「……馬鹿!」
「うわいきなり何や。雰囲気ぶち壊しやな」
 何で私この人好きになったんだっけ。
 浸っていたのにいきなり現実に戻された。
「そんな所に顔埋めて言う台詞じゃないでしょ! エロ!」
「男のサ・ガ」
 語尾に音符でもついてそうだ。
「開き直るの……っあ」
「董子、自分の魅力に気づいてないんやな」
 顔から火を吹きそう。
 もうこれ以上反論する余裕はないわ。
「最高」
 耳元にささやきが降った後、キスを贈られる。
 きっとどんなお菓子よりも甘いキス。
 抱きついたらもっと強い力で抱き返されて、
 思わずうっとりした。
 温かすぎてどんな暖房もいらないよね。
「嬉しそうな顔」
 涼ちゃんが頬を軽く摘んできたので
 私も同じようにやり返す。
 お互い変な顔で笑い転げる。
 至近距離に大好きな人の顔が迫ってるのって
 とってもドキドキする。
 視線も近いから、吸い込まれていく感じ。
 じっと瞬きせずに見ていたい。

「おっきな目」
 私は手を離したけど涼ちゃんは未だ私の頬を包み込んでいる。
 大きくて骨っぽい手で。
「そう? 」
「ああ、董子の好きな部分の一つ」
「真面目な顔して言わないでよ」
「そっちこそ茶化さんで聞けや」
「だって、ドキドキするんだもん……心臓壊れたらどうするの!」
 理由にもなってないのは重々承知だ。
「ぷっ……董子はほんまかわいいなあ」
 指先で頬をつつかれる。
 頬を膨らませるのって子供っぽいのに、
 何故かやってしまう。
「壊れたら、ええやん。そん時は俺の心臓も壊れてるから」
 クサいけど、嫌いじゃない。
 嬉しくなって飛びつかんばかりの勢いで擦り寄った。
 髪を撫でる手が気持ちよくて、眠りが忍び寄ってくる。
「おやすみ、俺のすみれ」
 呪文のような言葉に私は意識を手放した。



 すうすうと吐息が聞こえてくる。
 寝顔さえ笑みを刻んでる董子に、頬が緩む。
 すみれって呼ぶのは菫の漢字が含まれてるだけじゃなくて、
 隣に咲いていた小さな花だって意味があるって  いつか言ってやろうかな。
 知ってるか、菫はアスファルトの地面でも  力強く咲くんや。
 董子はそんなけなげな強さを持ってる。
 俺には本当は、勿体無いくらいの女。
 移り香を感じて嬉しくなる。
 あまくて、董子の香りやって実感できるから。
 董子にも俺の香りが届いてるやろうけどな。
 一人で笑ってるなんて気味悪いかもしれへんけど。
 恋愛してると馬鹿になるやろ。
 これが普通やって。


fin.

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