なんだかわからないうちに、そういうコトになった。
〜 もしかして霹靂 〜
「やっ……、あ」
体が冷えてはいけないとシャワーを浴びて、その後ベッドに案内をやんわりと強要され現在に至る。
今日、初めて知り合いになった(らしい)彼とこういうコトになっているのは、身持ちの固い自負がある和美からすれば不本意ではあるけれど……行きずりエッチだと割り切れば相手は悪くないし、素直に気持ちいいとも思える。
ただ。
「ね、え?」
最中に訊いていいのかはわからないが、教えてもらいたいことが一つあった。
彼は動きを少し緩やかにして、聞く体勢になってくれる。
でも、それでも微妙な刺激はあるんだけど……。
「なんですか?」
「……なまえ」
「名前?」
「あなたの、なまえ……聞いてないわ」
「みなと、です」
「ミナト?」
「苗字は、よく知ってると思いますけど」
少し意地悪そうに呟いて、ミナトは覗きこんでくる。
「僕も貴女の名前、聞いてませんよ? 苗字は表札でわかりますけど、飯田さん」
「……和美」
「飯田かずみ、さんですね。ココ、気持ちいいですか?」
「あっ!」
「ミナト、って呼んでください。かずみさん」
また動きはじめた彼に翻弄される。「ミナト、みなとぉ!」と促されるまま、連呼して……ちょっと恥ずかしくなる。
名前を聞いて、最初に呼んだ場面がコレでいいの?
「かずみ、さん。可愛い」
若いからこその溌剌とした色気と、男っぽい表情に(まあ、いいか)と思う。
社交辞令だって、ちゃんと体で納得してるよ……だって、年上なんだしね。
ギュッと、ミナトの背中に抱きついて和美は考えることを投げ出すと、すごく気持ちよくなった。
遠くで声がした。よく耳に馴染んだ、あの人の声だと脳裏をよぎって次に浮かんだ疑問にハッとする。
『 苗字は、よく知ってると思いますけど 』
そう言った、彼の顔を思い出して愕然とする。どうしてすぐに気が付かなかったのだろう。
彼を和美はよく知っている。そう、一方的に よく 見ていたのだ。
朝の天気予報で。
「由良〔ゆら〕……湊〔みなと〕?」
呆然と朝のそれに出ている昨夜の彼を見つめて、信じられないと首を振った。
夢だと言われたほうが納得がいくのに、確かに昨日の夜の痕跡が部屋のあちこちにあって(体にも、あって)……しかも、夢の中で帰り支度を整えた彼が和美にこう訊いていたのを覚えている。
『和美さん、部屋の鍵のスペアはある?』
どうして、そんなことを訊くのかと訝しく思いながらも頷いた(のだと思う)。
『じゃあ、借りてくね。今夜、返しに来るから』
……返しに来る、そう言ってなかった?
おぼろげな記憶の通りに鞄の中を探れば、確かに部屋の鍵はなくなっていて否が応にも現実味を帯びる。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ! 無理っ、由良くんに会うなんて!!」
平静でいられる自信なんてこれっぽっちもなくて、知らないから抱き合えたのだと体が熱くなった。
「由良くんと、由良くんとしちゃったの? う、嬉しすぎて死んじゃうかも……」
それが、たとえ行きずりのナンパでも。
喜ぶべきシチュエーションではないと頭では理解しながら、気持ちは弾む。失恋の痛手なんてもう忘れるくらいに! ……そう考えて、和美はホッとした。
>>>つづきます。
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