臣卿の苦悩-2 〜Web Clap〜


〜帝国恋愛秘話〜
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こちらの 「大臣卿の苦悩-2」 は、
「帝国恋愛秘話」の「うぇぶ拍手」用に書いた
オマケ番外SS/加筆修正版です。
時間列としては「しなやかに強く1」のその後。
イフリア帝国の大臣卿のみなさん……論点ずれてますから!



 第二妃の懐妊の報せを聞いた大臣卿は、皇帝のもとへと集まるとまずは形式どおりの祝辞を述べた。
「おめでとうございます、陛下」
「まこと、よき報〔しら〕せにございます」
「無事、お世継ぎが産まれるまで私どもも 全面的に 協力させていただきます……ひいては、陛下」
 外務卿が敬意を示しながら、おずおずと目を上げて玉座に座る皇帝に話を向けた。
「なんだ?」
 眩い金髪に冷ややかに澄んだ青の瞳が、訊く。
「妃殿下の懐妊中の、 お相手 もこちらで用意させていただきますが?」

 一瞬の間が空いた。

「 面白い冗談だ 」
 と、レイドイーグは真顔で返した。
 大臣卿たちは「いえいえ」と首を振って、さらに真顔で応じた。
「冗談ではなく」
「一体、どういう風の吹きまわしだ? そういう件に関して粛正しろとばかりにうるさいのは、お前たちの方だろう……それを、内務卿まで唆〔そそのか〕しに来るとはな」
 心外だと、レイドイーグはため息をつく。
 そんなつもりは、さらさらないと彼は大臣卿を見下ろした。
「必要ない」
「もちろん、 普通 ならそうです。ですが、お世継ぎがいる妃殿下に貴方の相手をしていただくわけにはいきません。そうでしょう? ガリアゲイド医学卿」

「ガリアゲイド?」

 指名を受けたまだ若い医学卿は、苦笑いを浮かべてレイドイーグを見上げた。
「つまりは、心配なのですよ。皇帝陛下……貴方が、妃殿下に無理を強いるのではないかと。そして、不安定なこの時期にお世継ぎを流してしまうのではないかと」
 ハッ、とレイドイーグは鼻で笑った。
「軽く見られたものだな、私も」
 激しい怒号こそ上げなかったが、冷たく見下ろした眼差しは大臣卿たちを射竦めた。ただ、医学卿だけが年近いせいか、レイドイーグとは比較的親しい間柄のため少しも怯まない。
 というか、おかしくて笑いそうになるのを喉元で堪〔こら〕えた。
「仕方ないでしょう? 貴方には 今までの実績があるんですから……この件に関して 信用しろ という方が難しい」
「ふん、今までとはちがう。ツゥエミールの子どもなら、大切にするさ」
 もちろん、大臣卿とてこの冷たき炎の皇帝が第二妃・ツゥエミールを大切にしていることは身をもって知っている。それが、今までとまったく性質を違〔たが〕えていることも、浮気はしても決して彼女の知らないところでは声さえかけない……ということも。
 なぜなら、それは 浮気 ではなく彼流の お遊び だからだ。
 大人しい第二妃は、あまり感情を表に出さない。それが、この王からすれば面白くないのだろう。
 時々、こういう子どもじみた方法を使っては彼女からかわいそうなほど赤裸々な気持ちを引き出した。
 が。
 だからこそ、大臣卿たちは不安だった。
「しかし、貴方ほどの方が我慢できましょうか?」
「十ヶ月もの禁欲生活ですよ、十ヶ月……」
「正妃殿下もおられるとはいえ、とても……」
 と、それは真面目に心配する。はっきり言って、大臣卿として心配の方向が 完全に 間違っていることに気づいていないあたりが滑稽だ。

「馬鹿なことを言う」
 レイドイーグは冷笑を返して、決定的な一言を口にした。

「――だから、心配することはない。分かるだろう?」
 ニヤリと笑って告げる皇帝に、絶句した大臣卿は……しかし、それがあまりに説得力がありすぎて反論の余地がなかった。
 ただ、ガリアゲイド医学卿だけが「皇帝陛下らしい解消法ですね」とため息まじりに呟いて、それに協力させられる無垢な第二妃に深く同情した。


*** ***


 くっくっくっと急に笑い出したレイドイーグに、ツゥエミールは目を瞬いた。
 懐妊を確認されてから、無理な行動は極力避けるようにと言われて、社交界からも遠のいた。もともと華やかな世界があまり得意ではないツゥエミールからすれば、日長〔ひなが〕一日部屋の片隅で刺繍やら編物をしている方が気が楽だった。
 それに加えて、まだ見ない子どものことを考え、靴下やら服を作るのはとても楽しい作業だった。
 夜になって顔をみせた皇帝に、その成果を報告するのが最近の日課。
 意外にも、彼は嫌な顔をせずに付き合ってくれるから報告にも熱がこもった。
 寝台に横になって、広げたそれぞれを彼に見せる。
「な、なんですか?」
「いや、大臣卿どもが妙な心配をしていたのを思い出した……繋がりあわなくても、楽しむ方法ならいくらでもあるのになあ?」
 と、まだ理解できていないツゥエミールの顎を持ち上げた。
「レイド……」
 真っ赤になって、ツゥエミールはその存在を確認した。
 はじめて、その方法を教えてもらった時には戸惑うことしかできなかったが、レイドイーグが幸せそうな顔をするから望むようにしてあげたいと願う。
 ただ、やはりその彼女の仕草はたどたどしくて、お世辞にも 上手 だとは言えなかったが……。

 ツゥエミールだから、レイドイーグはその一生懸命な仕草に欲情した。
 頼めばどんなことでも従おうとする健気さと、絶頂の頃にみせるなんともアンバランスな表情。
 苛めたくなる。
 そして、どこまでも愛しい存在。
 ひとつ床でまどろむことができたら、本当はそれだけで満たされた。
「奉仕なんか、させなくてもな」
「えっ?」
 レイドイーグに手を止められて、ツゥエミールはびっくりした声を上げた。
「今日は、いいよ」
 戸惑う顔で見上げると、澄んだ青の瞳は真剣で強く抱きしめられる。
 ふかいキス。
 そして。
 啄〔つい〕ばむようなキスを交わすと、ひどく安心して溶けるような眠りにさらわれた。


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