Moonlight Piano #9-wc


〜風花音楽大学一回期、夏季合宿・貴水視点〜
■拍手ページから落ちてきました■
こちらの 「#9-wc」 は、
「Moonlight Piano」の「うぇぶ拍手」用に書いた
オマケ番外SS/加筆修正版です。
時間列としては、「#9」の頃の貴水視点です。
あの子とこの子の掛け合いが、じつはメイン?



 跳ねて、弾んで……外す。
 旅人を思わせる気ままな日間八尋のヴァイオリンに、彼女のピアノはどこまでも柔軟に受け入れた。
 その包容力に感服する。

「悔しいけど、流石よね。日間くんのヴァイオリンについていくなんて」



〜 ハンガリア舞曲 〜


 傍らにやってきた鈴柄愛の言葉に、千住貴水は訂正を求めた。
「ちがうよ、鈴柄さん。ついていってるんじゃない、包んでいるんだ……彼の 音 をね」
 小夜原なつきのピアノに対する評価は、「ついていく」なんてありふたれものではない。柔軟な包容力を持つ彼女のピアノは、不規則な八尋のヴァイオリンの音色をすぐに掌中におさめて、自らのペースに引きずりこんでいく。
 合わせるつもりで、彼女は無意識に相手のペースを思うとおりに操作することができるのだ。
「千住くんって……」
 舞台のなつきを見つめる貴水に、愛が驚いて言った。
「小夜さんのピアノ、高く評価してるのね」
「小夜さん?」
「小夜原さんのこと。それはいいとして、質問に答えて欲しいなあとか思うんだけどね。好きなの?」
「……好きだよ。彼女もそのピアノも――」
 隠す必要もなかったから、素直に口にする。
 きゅっ、と愛が唇を噛んだ。
「そう」

 えへへ、と笑うと愛は頭をかいて「やだなあ」と努めて明るく振舞った。
「千住くん、ってそういうとこ容赦ないんだから!」
 どん、と胸を押される。
 貴水は視線を舞台から愛に戻して、微笑んだ。
 突き放すかのように、優しく。
「そうかな?」
「あーあ、いいよいいよ。今はさ、それでも……でも、わたしのピアノだってなかなかヤルんだからねー」
 腕に擦り寄る挑む瞳の彼女に困惑して、気のない相槌をうちながら貴水は身を引いた。
 その愛の頭をパコン、と「強化合宿参加のしおり」を丸めたモノが叩く。
「あいた!」
 大仰に顔をしかめて、愛がふり返る。
「メーコ」
「愛ぃ? なに、イチャこいてんのよ! 友人に仕事任せっきりでさあっ」
 仁王立ちの愛の友人は、貴水の視線にすこしたじろぎながら「めっ」と愛を睨む。
「ひどーい。友達の恋路を邪魔するなんて、鬼メーコ」
「ひどくない! あんたってコは……ほら、次花火するんでしょ準備準備」
 追い立てるように引っ張り、貴水の腕から愛をはがすと、「えー」とか「もうちょっとー」とかいまだ未練がましい声を上げて抵抗する友人の背中を押した。

 彼女たちが去って、余興も終わると講堂は明かりを落とされ、誰もいなくなった――。



「 二回目、べつにここでもいいのよ? 」
 と、躊躇いもなく落とすなつきの爆弾に貴水は息を吐いた。
 黙って、無視するしかないだろう?
 口にしたら、 最後 なんだから。

 いつか。

 僕は君を、我慢できなくなる。
 君が、傷ついても離さない――それでも、いいんだろうか?
 君なら……と、願う。



( 君が思うほど、僕は聖人君子じゃないんだよ。小夜原さん )


fin.

BACK