留学の話に応じるつもりはないと、告白して。
泣き続ける小夜原なつきを抱いて、千住貴水はどっちなんだろうと思った。
この涙は嬉しいからなのか、それとも拒んでいるのか。
今、拒まれても応じることはできそうにないので……許してもらおうと上体を浮かせようとして、止まる。
子どものように抱きついてきたなつきに、膨れ上がった衝動を抑えられなかった。
――近頃の。制御のできない彼女との関係に「友人」とは呼べなくなりつつあることを、自覚している。
本当は、最初から自信なんてなかった。
彼女と「友人」のままでいられるなんて、……無理だ。
それでも、努力はしたんだよ。
〜 Je te veux 〜
留学の話が挙がるよりも、喧嘩をするよりも前から貴水には躊躇〔ためら〕いがあった。
なつきを時々マンションの自宅に泊めて、抱き合って眠る。そんなことが回数を重ねるごとに増えて、当たり前になっていく日常。
幸せを感じた。けれど、逆にこんな関係に巻きこんだことを深く後悔する。
友達でもない。恋人でもない。
そんな関係に彼女を強いること――自分には、そんな権利は確かにないのに。
なのに、抑えることができないのは、慣れはじめているからだ。彼女の好意に……だから、距離をおこうと思った。
たとえ、これで彼女が離れていっても今ほど悪い状況ではないハズだから。
でも、手離すことはできなかった。
「泣いていたの?」
と。叔父の経営するプロダクションの、叔父の部屋で二人きりになるとなつきはあからさまに動揺してみせた。
貴水の問いに、むきになって否定するから笑って安心させる。
「何か言われた? あの理事長に」
まるで、疑うように仰いだ瞳に貴水は(やっぱり)と、予感が当たっていたことを知る。
この話を断って、なつきが矢面に立たされるのは、ある程度予想がつく。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。
留学なんて、本当にどうでもいい。
彼女を抱いて、貴水は強く感じたことを口にする。
「僕が欲しいのは、君だから」
大事なのは、たぶんそれだけ。
手離せない。
……だったら、手に入れるしかないじゃないか。
確かな想いをひとつ、手に入れたいと願った。
fin.
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