遥のことを考えて、出した 結論 だった。
だって、可愛い 弟 のためだもの……お姉ちゃんのわたしが一肌脱がなきゃ、って思うじゃない?
所天町の自宅マンション、その自室の机でいつものように問題集を広げていると、やっぱりいつものようにやってきた同じマンションの住人で幼馴染でもある西野が、めずらしく勉強道具一式をコタツに広げていた。
期末テストを明日にひかえて、さすがに彼も一応は勉強をする気になったらしい。
まあ、しなくてもそこそこの成績は残すタイプではあるけれど……。
眼鏡を押さえて、ふと目を上げる。
そばに来た西野はもう、テスト勉強を切りあげるつもりなのかいつものように妙な行動に出た。
ブラウスの上から暖色のカーディガンを羽織ったわたしの胸に、背後から抱くように触れてくる。
いつも思うんだけど、コレって何のスキンシップなのかしら?
わたしの目を見て、西野は美声(って、評判なのよ。もう聞きなれちゃったけど――でも、一般的表現は説明に必要よね)で訊〔たず〕ねた。
「 変な気にならない? 」
緩急をつける彼の手が、わたしの胸のふくらみを優しく撫〔な〕でる。
でも――わたしは首をかしげた。
コレもいつものこと。
( 理解に苦しむわ、西野 )
「………」
じーっと彼の顔を眺めて、わたしは数日前の体育館裏での情景を思い出した。
結局、西野はアレから何も報告をしてこない。
奈菜ちゃんと付き合うことになったとか(コレは、ほとんど可能性がないけれど)、彼女とテスト明けにデートすることさえ(コレはアリだわね、だって西野だもの)口にしない。
わたしが、それを知らないと思ってるのかもしれないけど……どうして?
あ、もしかしてわたしってコイツの報告を待ってるのかしら?
「 伶 」
反応もせずにまじまじと眺めていたら、西野の顔が斜〔なな〕めに近づいてきた。
吐息が頬にかかって、間近に彼の切れ長な瞳がある。
端整、って言うのかしら?
確かに、西野の顔は見ていると綺麗な気がするけど……やっぱり見慣れているから感動はない。
「なに? ちょっと近づきすぎよ。ぶつかるじゃない」
わたしが言うと、西野が至近距離で変な顔をした。
「ぶつかるためにしてたんだけど」と呟くと、恨めしそうな眼差しで訴えてくるから本当に解からない。
ぶつかるために? 危ないじゃない。やめてよ。
わたしはたぶん、思いっきり眉根を寄せていたと思う。思うだけで、あんまり表情にはでてないかもしれないんだけど……そういうこと、結構多いのよ。わたしって。
「 理解不能だわ 」
と。
いつもの常套句を言い放って、うなだれる彼を放置した。
ちょっと自分の声が不機嫌に低かった気もするけど、……たぶん気のせいね。
べつに、怒ってなんかいないんだから。べぇーだ!