姫君 Manabe You-2


〜NAO's blog〜
コチラの、「背徳の姫君」は「陽だまりLover」の姉妹作品です。
「なおのブログ」にて、「背徳の姫君」というタイトルから
インスピレーションで書き始め……膨らんだ話です。
「陽だまり」の二人は登場しませんが……舞台は同じ「帝都浦川高校」
って、コトで「陽だまり」とはひとあじ違う、ビター味仕上げ(笑)。
孤高の書記殿、真鍋視点の「魔女の棲む家」。
コチラ、一部に 教育上不適切 な箇所がございます。
大人じゃない方、苦手な方は――ご遠慮ください。
 



 「お願いがあるんです」と口を開いた、黒い、ガラス玉のような彼女の瞳に虫唾が走る。

 嫌な予感が真鍋耀〔まなべ よう〕の頭を過〔よ〕ぎって……けれど、向けられているのは 自分ではない という一点においてのみホッとする。
(いや。――そう感じる俺が変なのかもな)
 外を眺めながら、話だけを耳にする。
 まだ、肌寒い三月だ。窓は閉め切られ、そこに二人の姿が映った。

「ダメ、かしら? 名越くん……この週末って、急な話なんですけど」

 とある騒ぎの結果、長かった黒髪が肩ほどまで短く揃えられた彼女は、日本人形のような面差しを憂いをもたせて曇らせると、頼りなげに目の前の彼を見上げた。
 効果覿面、帝都浦川高校の生徒会会長である名越真希〔なこし まき〕は、そんな汐宮清乃〔しおみや きよの〕に一も二もなく頷いた。
「構いませんとも。むしろ、光栄です。汐宮流といえば、華道の家元で有名ですし……俺なんかで反対されやしませんか?」
 話口調も丁寧にしたほうがいいかと、やけに心配する真希にくすくすと喉を鳴らすと、清乃は「いやだ」とさも可笑しいと笑った。
「しゃちほこばらなくても大丈夫です。みんな、わたしの「 彼 」というのに 会って みたいだけなのですから」
 面白がっているんです、とほんの少し顔をしかめてみせる。
「そうですか?」
「ええ。ほら、この髪の騒ぎがあったでしょう? それで、知られてしまって……本当は、こうなると思っていたので黙っておきたかったのですけど」
 困ったように、真希を仰いだ。
「名越くんに迷惑ばかりかけてしまって、心苦しいわ」
「そんな!」
 清乃の手を取って、真希は姫に忠誠を誓う騎士のごとく 宣言 した。

「週末ですね、まかせてください。汐宮さん」



〜 真鍋耀の場合 〜


 さて。
 そこから彼女の視線は、生徒会室の窓際の椅子に座った書記へと移った。
「よろしければ、耀も一緒に来て欲しいわ」
「 は? 」
 なんでだ? と不快に思ったが、彼女は怯まない。
 にっこりと笑うと、あの ゾッ とする眼差しで彼を映した。
「母が貴方にお礼を言いたいと……助けていただいたので 是非 」
「別に、いらない。礼ならおまえがしに来たじゃないか、それで 十分 だろう?」
 あとは、そこの真希一人でやらせておけとばかりに、耀は清乃を冷たく見放した。

「 そう。残念ね 」

(よく、言う)
 解かっていたクセに、わざと誘ったその手口に耀は辟易とした。
(策を講じていた ワケ だ……最初から)
 息をついた 儚げな 彼女は、いまだ手を取ったまま離す気配のない真希へと顔を上げると、「母が 二人に 会うのを 楽しみ にしていたのですけど」とささやかに 強請〔ねだ〕るように 呟いた。


*** ***


 週末、使命に燃えた真希に連れ出された耀は大きな日本家屋の前に立っていた。
 広大な敷地をぐるりと囲う生垣に、こぢんまりとした鄙〔ひな〕びた門。開かれたそこを、飛び石が玄関まで案内する。
 その間にも、今ではあまり目にしなくなった「和」の庭園に馬鹿らしいほどに感嘆した。
「こりゃ、すごい」
 よく晴れた寒空の中、耀はそうはあまり実感のこもっていない様子で言葉にする。
 半ば無理矢理に連れてこられた彼の装いは、普段の外着と何ら大差はない。厚手のジャンパーにマフラー、中はセーターとGパン。靴は、一応こだわりのスニーカーなのだが……特に他意はない。
「深窓の令嬢ってヤツだな。頑張れよ」
 ポン、と叩く。
 真希は耀とは違い。しっかりとした正装のいでたちだった。とは言っても、この家からすれば「庶民」の礼装〔背広〕に過ぎない。
「ああ、耀がいてくれてよかった……俺だけじゃ、とてもじゃないけど入れそうにないよ」
「そうか?」
 確かに、どでかい家だから威圧感はあるが――それだけだ。
「そうだよ、やっぱり汐宮さんは俺にはもったいない女性〔ひと〕なのかもしれない……おまえの方がずっと、肝が据わっているし」
「何、言ってるんだよ」
 ゾッ、と背中に寒いものが走って耀は即座に否定した。
「清乃の 相手 はおまえだろ」
「耀……彼女って気が利くだろう? 俺が一人じゃかわいそうだと思っておまえと一緒に来るように言ったんだよ、きっと」

(いや。それはない)

 最近、……正確にはあの三学期の始業式の一件から真希はよく、清乃のいいところを耀に売り込むようになった。
 内心、そうじゃないと思うのだが、口にしたところで聞く耳を持たない 人間 にはなんの 意味 もないから黙っている。

 代わりに。

「 ふぅん 」
 どうでもいいとばかりに相槌をつくと、「なんだよ、その気のない返事」と温厚なはずの真希はやけに冷ややかに言って、振り返る耀から顔を背けた。



 玄関で二人を出迎えたのは、しっかりと着物を着こなした彼女だった。
 そして、後ろからやはり着物を着たキレイな立ち姿の女性が出迎える。二人とも、キレイだという意味では同じなのだが、重ねた年齢の違いか……あるいは、身に着ける着物の柄の違いなのかもしれない。

「ようこそおいでくださいました。名越様、それに真鍋様にございますね……清乃の母、君枝と申します」

 長い黒髪を後ろできっちりと纏めたしっとりとした美人だった。
 とても、清乃を産んだ母とは思えないほどに、若く、けれども 確かに 彼女の だろうと思わせる妖艶さが清純な微笑みに漂う。
「はじめまして、名越真希です。で、こっちが友人の真鍋耀」
「どうも、真鍋です」
 母親は、目を細めて「可愛らしいこと」と真希の様子に至極、ご満悦そうだった。
「この娘に彼氏ができるなんて、初めてのことですのよ……お話は、時々ございましたのに全部断ってしまって……母として心配していたところですの。よかったわ、名越様のようなお優しそうな方で――扱いにくい娘ですが、どうぞ可愛がってくださいね」
「はあ……いえ、はい」
「真鍋様、このたびは娘が大変にお世話になったそうで、遅ればせながらお礼を申し上げたいと……逆に、ご足労いただいて恐縮しておりますの」
「いえ、べつに」
 まったくだ、とは心で返しながら、ここまで来たのは自分の意思だ。
 相手に畏〔かしこ〕まられても鬱陶しいだけだった。
「用が済めば、すぐに帰りますのでお構いなく」
 ゆっくりと顔を上げた母親は、「まぁ」と目を見開いて「正直な方ね」とコロコロと笑った。
「どうりで清乃が気に入るわけだわ。貴方がたのこと、わたくしに紹介したくないって渋っていましたの……ええ、口では 絶対 そのようなことは言わないんですのよ。お解かりになるかしら?」
 そっと、手を握られそうになって耀は虫唾が走った。
 清乃に感じるものよりも、ずっとねっとりとした視線がまとわりついてくる。
(なるほど、ね)

「 さあ、俺には サッパリ 解かりませんね 」

 清乃の祖母、君枝の母という女性とも面通ししてその前に座った。
 祖母という女性は、華道汐宮流の 家元 らしい。元来、華道の家元は男性であることの方が多いのだが、どうした理由か汐宮の家ではあまり男性の家元は長続きしないのだという。先代の家元、つまりは現・家元の夫も早逝した。
 まっすぐに伸びた背筋をピンと張って、白髪も美しい彼女は正座をしたまま二人に頭を下げた。
「お待ちしておりました、静〔しずか〕と申します……先の短い婆ですが、お見知りおきを」
 その背中には、鮮やかな花が花器に生けられて、静かに彼女の微笑を彩る。
(まるで、魔女の家だな)
 耀はふと、口の端を上げてそんなことを思った。



 清乃は庭を案内するため、と母から言われて真希を伴って外に出た。
 もともと長居をするつもりはない耀は、しかし、屋敷の中からでもと君枝にすすめられて長い縁側を歩く。
 庭には、華やかな色の着物を着た清乃の姿と背広にコートを着た真希の姿があった。三月という季節柄、外の風景は寒々しいが……恋人同士ともなれば、それは格好の季節だろうか。
 池の側〔そば〕、椿の植え込みの前でどちらともなく顔を寄せる。
「はしたない」
 母親らしい言葉だと、耀は苦笑いした。
「俺が言うことではないと思いますが、真希はいい 人間 ですよ。本当に、ね」
「……その、ようね。いいえ、娘の躾の問題ですわ。人目のあるところでこのようなこと、お恥ずかしい限りです……真鍋様、後生ですからお忘れになって」
「構いませんよ」
 耀はもともと、公言するつもりはなかった。
 口にしたところで、付き合っているのなら「当たり前」のことだ。
「そう、よかった。申し訳ありませんけれど、わたくし用を思い出しましたので代わりの者に案内させますわ」
「案内? いや、もう俺は帰りますから」
 辞退する耀を君枝は取り合わなかった。
「いいえ。お待ちになって、すぐによこしますから」
 君枝は強く言い残して、縁側を戻っていく。
 やれやれ、と肩を竦めて、耀は庭へと視線を戻した。そこには、すでに二人の姿はなく寒々しい日本庭園の景色だけが映っている。
「よくやる」
 嘆息した。向こうが耀の目を知っていたかは、定かではなかった。
 しかし、十中八九そうだろうという予測は成り立つ。
(いや。俺の目というよりは、母親の目だろうか……)
 真希なら品行方正な男性として、付き合う相手として文句のつけようもないはずだ。例え、あの 過保護な 母親であろうとも理解してくれると耀は思う。
 その証拠に、真希よりも自分に監視を強めてきたのが何よりの現れ。
 娘を傷物にするかどうか、本能的に見分ける力があるのだろう。
「真鍋様、ご案内いたします」
 代わりにやってきた案内役は、明らかに男癖が悪そうな……けれど、やはりキレイな和装の女性だった。


*** ***


 案内された部屋は、屋敷の中でも特に離れた渡りを隔てた場所にあり、「そうしたこと」を前提にした場所なのだろうと思わせた。
 首に巻きつけられた細い腕。壁に押しつけた華奢な体、唇に触れるやわらかな感触に――耀はめずらしく考えた。
「んっ、あ……」
 途中で止めて、不服そうな 彼女 の顔を眺めて、そうだったと思い出す。
「耀」
「清乃、か。そうだよな……真希はどうした?」
 額をつける目の前の彼女の着物は、黒い蝶の飛ぶものだった。こんなにも簡単に着物とは着替えることができるものなのか、と感心する。
「名越さんなら、母と愛美叔母さまの質問攻めになってます――それより、耀」
 続きを強請〔ねだ〕る彼女の姿は妖艶で、耀の中の「牡」を煽るに十分だった。

「 あなた以外の男性に触れた、カラダは嫌い? 」



( 嫌いじゃない )
 困ったことに、耀は清乃を嫌ってはいなかった。体の相性はいいし、話していても感性が似ているせいか不快になることが(他の人間と比較して)遥かに少ない。
 時々、向けられる視線に虫唾が走ることもあるが……気にしなければ、外見も人形のように整っていて素直に キレイ だとも思う。
 ただ、好みの顔か? と問われればよくわからないのが現状だ。
「あんっ、あっ、もっとよ……もっと、奥に。……きて」
 壁に押しつけられた背中を上下に激しくこすりつけられながら、彼女は腰を気持ちよさそうに揺らした。
 黒い着物と白い肌襦袢、そこから覗く白い太腿とむき出しの下半身。
 袖の脇から手を入れれば、張りつめた胸に直に触れる。尖った先が手のひらにあたって、指の股で挟みこむ。
「ッあん、耀……」
 着物では、基本下着はつけないのだと彼女は言った。
「そそる、顔ではある……か」
 そそり立つ自身を清乃の中に挿れて、乱暴に腰をふるいながら耀はその淫らな顔を眺めた。
 紅もひいていないのに鮮やかに色づいた赤い唇、ガラス玉のような黒い瞳は潤んで、白い肌はうっすらとピンク色に上気している。汗ばんだそこに黒髪が張りついて、長い睫がふるえていた。
 彼女の下半身はギュウギュウと締めつけてくる。
 立ったままの彼女の足の股を開いて、さらに奥に突っ込んで彼女の中をメチャクチャにかき混ぜる。
 地についていない足を耀の腰に絡め、彼の背中に腕を廻した清乃は強く爪を立てた。
 ぐんっ、と奥を突き上げる。
 すると、彼女の体はビクンと跳ねた。
「ああっ、いい!」
 膨張した彼を、圧迫する肉の壁。ヒクヒクと痙攣して、襲った恍惚に彼女の中は大きく蠢いた。
 強く搾られる感覚に、目の前が熱くなる。
「ッ! はぁっ、はっ、はぁー」
 ドクドクと彼女の中に全部を出し切って、引き抜いた。

 畳の上に崩折れる乱れた着物姿の清乃は、ハァハァと息を乱していたが意識はあるようで、切り揃えられた黒髪の向こうから熱い視線を投げてくる。

「……ああ、くそっ」

 本当に長居をするつもりではなかったのだが、もうしばらくは帰れそうにないと耀は後始末をしながら元気になる自身に舌打ちをした。


 >>>おわり。

BACK