姫君 Secret Curtain-2


〜NAO's blog〜
コチラの、「背徳の姫君」番外は「陽だまりLover」の姉妹作品です。
「なおのブログ」にて、「〜越し」と「抱擁」をテーマに
脳内劇場を繰り広げて書いたお話です。
目印で分かるとは思いますが、
この「カーテン」シリーズ最後の際どい場面です(笑)。
第三場面は、健全ではありませんが(←こらこら)
あえて「制限」を与える描写もないので心安らかにご覧いただけると思います。
とか言いながら、違う意味で心臓に悪いかもしれませんが(^^ゞ。
コチラ、一部に 教育上不適切 な箇所がございます。
大人じゃない方、苦手な方は――ご遠慮ください。
 



 鳴海広之〔なるみ ひろゆき〕と仁木可奈美〔にき かなみ〕がつき合っている、と最近はよく耳にする。
 どこそこでキスをしていただとか、いかがわしい場所で一緒にいるのを見ただとか……とにかく、目撃証言が多いのが特徴だった。その噂を裏付けるように、二人は確かに学校でもよく一緒にいるところを見かけた。
 山辺志穂〔やまべ しほ〕は、その現場を見つけるたびに(つき合っているのかな)とぼんやりと思う。

 けれど。

(でも、じゃあ……どうして、昨日の夜も……)
 朱に染まる痴態を思い出す。
 決して繋がりあうことのない彼との行為は、すでに日常的なものだった。今も服の下にその 名残り が生々しくついているというのに……だからこそ、それが。 少しも 理解できない。
 彼女がいるならどうして?
 それとも、ただの噂なのだろうか?
 志穂には「鳴海広之」という隣人の幼馴染が、どんどん分からなくなっていく――本当の彼が知りたくて、本当に 知る のは怖い。

 それが、彼との別れの合図だと彼女はおぼろげに感じていた。



〜 二人の関係 〜


 学校の人影まばらな階段の踊り場で、抱き合う二人を見つける。
 彼の手が、彼女の頬にかかって優しく顎を持ち上げる。
 壁に背中をつけて、目をそらす。
 志穂に対しては乱暴な彼だけれど……やはり、「彼女」には優しいのかと思うと、胸が締めつけられるように辛い。
「どうしよう……」
 まるで、口癖だと志穂は自分の発した呟きに落ちこむ。
 考えるまでもなく、答えは出ている。
 今の彼との関係が、異常なのだ。続けていること自体が、おかしい。
 彼女がいるなら、なおさら。
「……鳴海くんが、言ってくれたらいいのに」
 こんな時にまで、他力本願。
(だって、わたしには言えない。言えないよ……言いたくない)
 唇を噛んで、どうやって二人に会わずに帰ろうか志穂は一生懸命考えた。



 カーテンを隔てた向こうには、満月に近い月夜の空。
 電気をすべて落とした部屋の中は暗く、窓とカーテンの隙間から差しこむわずかの月明かりが二人を照らしていた。時折、雲が光を遮って影さえも覆ったが――。

「……ッ」

 背後から、前に……パジャマの中へと彼の手が入って、下着を横からずらして触れる。
 四つん這いになって、いつものように獣の姿勢で重なる影。
 くちゅり、とすでに潤ったそこが広之の指を簡単に迎え入れて、「あん」と口から知らずのうちに喘ぎ声が洩れる。
 言って欲しい言葉は、あった。
 逆に、口にして欲しくないとも……思っていた。
(おねがい……もうすこし。もうすこしだけで、いいから……)
 彼が指を中でかき混ぜるたびに、淫靡な音がそこから生まれた。小刻みに体が揺れて、揺れる胸を彼のもう片方の手が掴む。
 前の開いたパジャマからたくし上げられたキャミソールとブラ、そして掴まれた胸とそうでない胸が覗いて卑猥な情景をつくりだす。
 わざと、そういうふうに志穂を辱めながら、彼はそのたびに「淫乱」と彼女を呼んだ。
 そんな彼が、志穂は嫌いじゃない。
(嫌いじゃ、ないの……)
 胸を掴み、固く尖った先端を荒々しく刺激する。
 枕に顔を埋めて、首を振る。
「んっ……あっ、はぁ……ぁん……」
 むずむずする腰を揺らして、差し込まれている指を浅く深くくわえこむ。
「あん」
 我慢できず彼女が淫らに揺れるたびに、彼も下半身を押し当てた。
 それは、パジャマやほかの隔てる布がなければ、確実に志穂の入り口に当たる場所にぶつかって、たまらない感覚を彼女に与えた。

 嫌なのに。
 恥ずかしいのに。
 彼にだけは、こんな自分は知られたくないのに。
 擦りつける。

 そう動かずにはいられなかった。
「んっ……んっ……」
「志穂」
 そんな声を抑える切なげな彼女を上から見下ろして、広之はさらに自身を押し付け、密着した。
「俺の噂……気に、ならないの?」
 本当には、繋がっていないのが不思議なくらいの至近距離で彼が訊く。
( え? )
 朦朧とした思考回路で、志穂は広之を肩越しに仰ぎ……次に来た、一気に責めたてる激しい彼の指の動きに息を呑む。
「ッ……ぁんん!」
 脳裏にチカチカと光が点滅して、どこかに飛んだ。
 ただ、その直前に映った彼の 表情 だけが、意識に残る。

(鳴海、くん……?)


 雲に翳った部屋の人影は読み取るのが難しかったけれど、痛々しくてひどく傷ついているような気がした。


*** ***


 意識の遠く隔たったところで、彼が「ごめん」と謝ったから志穂は首を横に振る。

(謝らないで。……鳴海くんは少しも、悪くない)

「……んん?」
 不意に肩が寒くなって、目を覚ました。明かりのついていない自分の部屋にはすでに彼の姿はなく、一人きりでベッドに横になり、窓もピタリと閉まっている。
 夢のような、感覚。
 すべてが、自分の産んだ妄想なのだと時々思う。
 けれど。
 わずかに開いたカーテンと、鍵のかかっていない錠前に広之の存在を確かに感じて、体にかかった毛布を引き寄せる。
 窓に寄り添い、開いたままだった鍵を落とす。
 視線を落とせば、何事もなかったように志穂のパジャマは整えられていた。カーテンに包〔くる〕まって、コテンと頭を窓ガラスにつけると、息をつく。
 白く濁った、窓ガラス。
(いつも、すぐそこに……見えるのに)
 その向こうに見える彼の部屋の窓を、ぼんやりと見つめて指でなぞる。
 もう眠ってしまったのか、カーテンの引かれたそこは真っ暗で誰の姿も映っていない。手の届かない場所だと、思い知る。

「……遠い、なあ」

 呟いて、いつの間にか涙が頬を伝い、カーテンに沁みをつくった。


 >>>おわり。

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