姫君 After Triangle-2


〜NAO's blog〜
コチラの、「背徳の姫君」は「陽だまりLover」の姉妹作品です。
「なおのブログ」にて、「背徳の姫君」というタイトルから
インスピレーションで書き始め……膨らんだ話です。
「陽だまり」の二人は登場しませんが……舞台は同じ「帝都浦川高校」
って、コトで「陽だまり」とはひとあじ違う、ビター味仕上げ(笑)。
この三角関係(?)がどのように転ぶかは
善良な彼の働きにかかっています、たぶん。
「2」の場面は魔属性の二人こそ濃い目でしたが
後半はかなり学園モノっぽく健全に(←そうか?)おさまりました。
 



 人形のように美しい顔を近づける彼女に、教室の机に座る真鍋耀〔まなべ よう〕は避けるでもなくそのガラス玉のような瞳をゾッとした心持ちで見つめた。



〜 三人の関係 〜


「何の遊びだ? これは」

 くすり、と笑って唇が触れるほど近くで汐宮清乃〔しおみや きよの〕は答えた。
「だって、我慢ならないのよ。耀が 誰か のモノになるなんて」
 たとえ、それが彼の冷徹な性格から来る「来る者は拒まない」のただの一時の関係だとしても、清乃に許容できるはずがない。
「なのに、耀は女の子にモテるし、無防備だから心配なの」
 と、彼女は胸の上に自分の手をのせて、「とってもよ」とでも言うように首を斜めに傾ける。
 傍から見れば、可愛く男に甘えているように映るだろうその仕草に、された相手はつくづくと嫌気がさした。
「……お前に心配される関係ではないつもりだがな」
「あら? それは わたし が貴方の友人の名越くんと付き合っている 彼女 だから……ということかしら?」
「それも、ある。が、それだけでもない」
 目の前の、キラキラと輝く女の瞳からは自分に対する「独占欲」が見て取れた。耀には理解できないが、清乃は自分に執着している。
 それは、出会ってからすぐに同類だと互いに感じたせいだと耀は思っている。
「俺は俺のしたいようにするだけだ」
「ええ」
 そっ、とほっそりとした彼女の指が耀の頬に添えられた。
 平日の日中の教室でこんなやりとりをしていれば、周囲からは悲鳴というか望みもしない雑音が生まれる。
「だから。わたしもわたしのしたいようにするのよ、耀」
 これほどまでに自分とよく似た感覚の人間は初めてだった。
 彼女を……気に入っていると言えば、気に入っている。
 けれど、同類とはいえやはり理解はし難かった。
「……お前が俺に執着する意味が解からない」

 自分にはない人に似た感覚が彼女にはあり――それがひどく腹立たしい。

 嫌そうに顰められた彼の冷えた眼差しに、彼女はふふふと嬉しそうに目を細めた。
「その目がゾクゾクしちゃうの」
 コツン、と額と額がぶつかって目と目が合う。
「もっと見て」
「いい加減にしろ、清乃。鬱陶しい」
「うん」
 従順に頷いて、清乃は耀から離れた。耀が嫌だと言えば、彼女が無理強いをすることはない。あくまで主は彼で、彼女は付き従う従者だ。
 基本「来る者は拒まない」主だから、従者が望んだことをあまり拒まないだけのことだった。



 それから、当然だがあらゆる噂が飛び交った。


*** ***


 三角関係、略奪愛に誘惑説、あるいは悪女の本領発揮だとか諸々。
 あれだけ派手に(傍目から見れば)イチャイチャすれば根も葉もない話に尾ひれがついて大きく飛躍してもおかしくはないし、もともと前からある噂話も相まってますます収拾がつかない。
 一生懸命収拾をつけようと奔走するのが話題の中心人物である三人のうち、名越真希〔なこし まき〕の一人だけだというのも噂話が過熱する要因のひとつだ。
 おかげで最近、耀の周囲は穏やかなものだった。以前の噂の時から数は減っていたものの女生徒からの誘いがなくなった。
 性欲処理に都合がいいとはいえ、女性との付き合いにはそれなりに面倒なことも多かったので悪くはない。
 三年という進路の岐路にもある身の上としては、そろそろ学業に専念もしたかったところだ。

 逆に。

 真希の周囲は以前よりもずっと騒がしくなった。
 告白をしてくる女生徒も絶えなければ、噂でさらに女子からの風当たりが強くなった彼女のフォローも増え、しかも噂話の火消しにまで誠心誠意取り組んでいるのだから耀からすれば(ご苦労なことだな)という気分だった。
 はぁ、と盛大なため息をついて戻ってきた彼に、耀は流す程度に読んでいた参考書から顔を上げて肩を竦めた。
「真面目に向き合うから疲れるんだ。放っておけばいい」
「そうはいかないよ」
 めずらしく温和な顔にムッと不機嫌をのせて、真希は反論した。
「俺たちはいい。男だし、こんな噂なんかどうってことないよ? でも、汐宮さんは……女性だよ。こんな不名誉な噂を流されるなんて可哀想じゃないか」
 それでなくても、真希と付き合うことで かなりの 嫌がらせを受けているのだから、彼としては居たたまれないというところか。
「……不名誉、ねえ」
 まさか、その噂を彼女自身が意図して流しているとは思わないのだろう。
「耀?」
 彼の顔を覗きこむ真希の瞳が、不可思議そうに見つめてくる。
「いや……清乃は気にしないんじゃないか?」
「まあ、平気……だとは笑ってくれるけど、きっと 俺に 遠慮してるんだよ」
 ここまで来ると 見事 だとしか言いようがない。
「ふーん」
 そう思っているのなら、あえて口にしても無駄だろうし。
 と。
 耀は気のない相槌を打って、真希がやけに真剣な表情をして訊いてきたから嫌な予感がした。
 大抵、彼がこういう思いつめた顔をしている時は彼女絡みで……妙な方向に愛情を傾けている。
「汐宮さん、耀には話してるんじゃないか? 弱みとかさ」
「……はぁ?」
 また、突拍子のないことを言い始めたものだ。
(弱み、ねえ? ……気色悪いことを言うヤツだ)
「あるわけないだろ?」
「……本当に?」
 そんなものを あいつに 見せられたらゾッとしないな……と耀は想像をするのも嫌で顔を顰めた。

 その時。

 生徒会室の戸口が開いて、話の中心だった彼女が姿を見せた。
「汐宮さん!」
 真希が嬉々として出迎えて、清乃は微笑む。何事かを彼に囁いて、甘えるように首を傾げた。
「耀! 喜べ、汐宮さんからのお誘いだぞ」
 満面の笑みで振り返る善良な友人を眺め、耀は(だから、どうした?)とこれから始まるだろう不毛な遣り取りを予想できて心底ウンザリとした。


 >>>おわり。

BACK