まだ、こいつは……あいつのことが好きなんだろうか?
「そんなだから、真鍋くんにもたった一週間で捨てられるのよ」
心無い仁木可奈美〔にき かなみ〕の言葉に、山辺志穂〔やまべ しほ〕は簡単に涙を浮かべる。大人しく、引っ込み思案なところが強い彼女だが、泣き虫ではない。
むしろ、我慢強い方だった。
「泣くくらいなら言い返せ」
見ていられなくて、鳴海広之〔なるみ ひろゆき〕は苛立ちを声にしたら思うよりもキツイ言い方になってしまった。
ビクリ、と縮こまった背中に痛々しさを感じて、手首を取り、そばに立っていた可奈美には一瞥をくべて無視をする。
次第に集まりはじめた野次馬たちにも、無言の圧力をかけて抜け出した。
〜 鳴海広之の場合 〜
静かに涙を流す志穂を、常駐する先生のいない保健室に連れてきた広之は優しい声をかけたいと思うのに上手くはできなかった。
「自分の 意見 くらい口にしろよ。黙ってちゃ伝わらないぞ」
ギュッと、フレアスカートを握る彼女の手が強く力をこめた。
「……なの……わかってるもん」
嘘だ。
彼女は少しもわかってない。
「わかってないね。そんな傷ついた顔してみても、ダメだよ。志穂」
その物言わぬ表情が、男を煽っているとわかっていない。
白いカーテンで仕切られた空間で、すぐそばに簡素ではあるがおあつらえ向きにベッドがあって、無防備に泣くことがどんなことか彼女は少しもわかっていない。
その顎をとらえて、仰がせると志穂は狼狽〔うろたえ〕た。
「な、るみくん……やっ」
「イヤ? だったら、もっとハッキリ言わないとダメだよ」
そうしないと、止めれない。
イヤイヤ、と頑なに首を振っても目を閉じたら意味がない。煽っているとしか、思えなかった。
「だから。嫌だったら口にしないと ダメ だって、言ってるだろ?」
(嫌なら嫌って、ハッキリ嫌がるんだ。嫌いだって、早く言ってくれ……)
身勝手な唇を甘んじて受け入れる彼女に、半ば懇願するように祈って広之は真正面から彼女をとらえて、ナナメに深く舌を差しいれる。
「っん!」
初めての深いキスに、縋りつく志穂の指が爪を立て、腕に鈍い痛みを感じた。
彼女のために 止めたい と願う。なのに、貪欲に彼女を欲する 自身に 広之は勝つことができなかった。
*** ***
驚くほど、彼女はやわらかいと広之は思った。
カーテン越しに背中から抱きしめた志穂は、誰とも知れない男の手にわずかに息を呑んだ。けれども、身を固くするものの息を殺したような声しか上げない。
(怯えているのか……)
さもあろう、という状況である。
制服の薄いブラウスの裾から手を入れて、素肌を這う。
ほどなく、女性らしくふくらんだ胸の双丘に達して、そこを隠す砦を押し上げる。
彼の一挙動一動作に緊張を示す小さな背中、小刻みに震えているのを感じているのに止める理性が働かない。
「っぁ!」
ついに彼女の尖りをも掌中にして、広之は劣情に屈した。
夢中になって、その形を手に……指に覚えさせ、目にできないだけ触れる感触で想像する。固く結ばれた乳首はどんな形をして、どんな色か? その周囲の乳輪は? 愛撫に張りはじめた胸の形、大きさは……確かめるように執拗に摘み上げ、手のひらで全体を包みこむ。
「っ、はぁ……んっ」
(いい声。興奮する……)
目を閉じてカーテンの向こうにいる彼女の肩へと、頭を預ける。
「あん」
くりくり、と転がすと気持ちよさそうに啼くから何度も何度もそこを責めた。
「――っぁ」
はじめて、下着の横から指を差しこみ彼女の入り口に触れた時、広之は自身を埋める瞬間を想像した。
まだ、濡れ方も浅いそこを撫で、敏感な場所を探っていく。
「……っ、あっ、や……そこ、ダメっ」
泣きそうな声でめずらしく大きく反応した志穂に、広之はここが彼女の いい ところなのだろうと理解した。くちゅくちゅと重点的にそこを指で突いて、前にある尖ったところを爪で引っかく。
「い、やぁっ」
トロリ、と彼女の中が熱く溶け出して広之の指を伝った。
興奮する下半身を彼女の背中に押しつけて、鐘〔チャイム〕が鳴ると離れ、トイレで自身を慰めた。彼女のあの濡れた場所に挿れる想像をする。
「……っ」
先刻まで触れていた場所だから、想像はリアルで、あっけないほど簡単に達することができた。
「……っ、あ。な、るみくん」
保健室のベッドでタイをほどかれ、ブラウスの前をくつろがされた志穂が半ばとろけた声で彼を呼んだ。
ブラは上に押し上げられ、半球形の胸の丘がふたつ露になっている。色づいた頂点は、ほどよく起ちあがってちょこんと行儀よく上に乗っていた。
スカートをはいたままの足から、下着だけをずらして、片脚を引き抜く。その脚を肩に担いで広げ、濡れた入り口に指を添えた。
「っ!」
恥ずかしさに頬を上気させた志穂は、たまらず横を向いて広之を視界から遠ざける。
「志穂」
「……え?」
顔を背けていた志穂がふたたび視線を戻して、広之は 何か を口にしようとした。彼女とこうして向き合ってするのは、実は はじめて だ。カーテン越しでもなく、夜の闇の中でも、背後からでもない。
ごく普通……というには、少々語弊があるが、広之たち二人からすれば、十分にまともすぎるシチュエーション。
今なら、彼女に言ってもいいような気がした。
けれど。
そこで授業開始の鐘〔チャイム〕が鳴って、お互いに気まずい空気になると体をどちらともなく離した。
「鳴海くん」と志穂が出ていこうとする彼を呼び止めて、訊く。
(めずらしいな)と、広之は立ち止まった。
「何か、……言いかけなかった?」
途切れ途切れのか細い声。
「べつに……」
改めて告げようとしたことを反復して、自嘲する。
「たいしたことじゃない」
この 関係 で、口にするにはあまりに調子がよすぎる。せめて、関係を一旦解消してからでなければ……言ってはならない気がした。
――保健室を出て、そこに仁木可奈美が立っているのを知って広之は息を呑んだ。
>>>おわり。
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