真鍋耀が扉を開けたら、そこには汐宮清乃が立っていた。
彼女は耀が了承する前にスルリと中に入って、玄関の扉を閉める。ちょうど、耀の母親が買い物に出かけたあとだったから、耀は(わざとか?)と勘ぐったくらいだった。
まさか、暇人じゃあるまいし。
何しに来た? と言わんばかりの彼に日本人形のような彼女はくすりと清純そうに笑った。
「お見舞い」
そう言って差し出すのは、一応お見舞いの品らしい花束だった。
淡いランをメインに色鮮やかなカーネーション、ボリュームにカスミソウを添えた女の片手には大きなモノ。
(大袈裟な……)
たかが、一日の謹慎程度でコレは耀でなくても呆れる。
清乃は当たり前のように靴を脱ぐために彼に無防備な背中を向けて、白い足を見せつける。
紺色のフレアスカートからすんなりと伸びた足……その奥に秘められた場所を知っている。幾度も入った、入口だ。
彼女から受け取った花束を玄関の靴箱の上に置いて、耀はその制服姿の背中を抱きすくめた。
「汐宮……本当は、何しに来たんだ?」
清乃の肩口までに短くなった黒髪に鼻先を埋めて、そこに隠れる白いうなじに唇をつけた。
彼女は首に回された彼の腕に手を添えて、可笑しそうに言う。
「だから、お見舞いです。真鍋さん」
「ふーん。お土産は花とおまえ?」
冗談にもならないような、彼女の誘惑だった。
制服のブラウスの上から、彼女の胸をまさぐるとこそばゆそうに体を捻る。けれども、それは嫌がっているワケではなく耀の縛りつける腕を縋るように掴んで熱を帯びた息を吐いた。
清乃は前屈みになって、玄関の扉に肘をついた。
ガン、と低い金属音が響いて、彼女の突き出されたフレアスカートに隔たれたお尻に耀の股間があたる。
それだけで、清乃はたまらなくなったように喘いだ。
「あんっ、真鍋さん」
「汐宮」
事態〔こと〕を進めるごとに大きくなりそうなその声を、耀が咎める。
「ここは玄関なんだから、大きな声を出したら外に聞こえる。俺の家はごく一般的な家庭なんでね、防音じゃないんだ」
咎めながらも押しあてられる彼の股間は、熱くて。
興奮した熱の感触は、服越しにもハッキリと伝わった。
「わ、わかって……あっ、いやっ!」
首を振って清乃は声を耐えようと努力するが、彼がそれを許さなかった。彼女のフレアスカートをめくり上げ腰の上に置くと下着の横から指を差しこんだ。
〜 三人の関係 〜
くん、と。
やわらかい溝の花びらを掻き分けて、中に入っていく。
「あっ、は……あ、あ、あぁん!」
清乃の襞を一枚一枚丹念になぞりながら、耀の指は抜き差しを繰り返した。
くちゅくちゅと響く卑猥な音は、次第に濃密になっていく。
「ふっ! ああっ!」
自ら腰を上下に揺らして擦り、清乃はたまらず大きく背中を反らせた。
「だから、声が大きいって」
静かに背後から彼は告げて、しゅるりと彼女のブラウスから臙脂色のタイを抜いた。それを清乃の半ば開いたままの口に噛ませて、後頭部で縛る。
タイのなくなった彼女のブラウスの前を大きく開いて肩まで肌蹴させ、胸を露にする。ブラのホックを外すと、胸の上にずらして、清乃の白いふくらみやそこに二つある綺麗に色のついた美味しそうな突起をよく見えるように外に晒した。
清乃の下着はすべて黒くて、細かな細工をしつらえた総レースの高級そうな代物だった。それだけでも視覚的にはひどく官能的だが……タイで猿轡をされた姿はさらに倒錯的で半脱ぎの制服というオプションとあいまって、耀を十分に満足させた。
薄く唇に笑みを浮かべて、囁く。
「 清乃 」
びくん、と彼女の背中がそれだけで反る。肩に這わされた唇が訊いた。
「おまえは俺の モノ だろう?」
ブラウスから顔を出す二つのふくらみをまさぐりながら、両方の赤い実を摘みあげる。
「ふっ」
捻られ揺らされ。
清乃は答えようとするが、噛まされた猿轡のせいで呻いただけで、言葉にはならなかった。
だから、目で訴える。
タイ〔コレ〕を外して欲しい、と。
しかし、彼の方は彼女に答えて欲しいワケではないらしい。その眼差しをサラリと無視をすると、目隠しした。
「思う存分させろよ。俺の自由に、な?」
倒錯的に、背後から囁く耀の言葉は、清乃を闇の中で激しく興奮させ支配した。
「ッ! ふぁっん、んー!」
いきなり後ろから繋がった彼に、彼女は引き攣るような痛みを覚え……うちふるえる。
彼との行為がいつも痛みを伴うのは、彼がほとんど前準備をしてくれないためだ。開ききっていない花を蹴散らすようにやってくるから、いつも少しつらい。でも、それが喜びでもある。
痛みを喜悦に感じるようになった体は、彼との関係に順応している誇りでもある。
「ふっ、ふっ、ふぁっ!」
「清乃……」
リズミカルな律動とともに、背中からの低くかすれた抑揚のない声。
目を隠した大きな手のひらと、もう片方の手のひらは清乃の胸を育み、指先でその尖った輪郭をクリクリともてあそんだ。交差する腕の腹が揺れるもう片方の胸の先をかすめて、とめどなく刺激する。
「ふ……んっ! ふ!」
「清乃」
ズン、と彼は後ろから奥にやってきて、引いていく。ゾクゾクと神経が粟立っていく快感。絶頂は近かった。
汗が弾け、白い肌がピンク色に上気して、反り返る。
「 ふぅん! 」
清乃の脱力した体が扉をすべって、落ちる。
耀がその繋がったままの腰を支えていたから、地べたにこそ着くことはなかったが……彼女の意識は朦朧としていた。
結合を解いて、手早く始末をつける。
だらん、とした体を腕に抱えなおして玄関に腰を下ろすと、その口から唾液に濡れたタイを抜き取った。
「清乃」
その静かな呼び声に反応して、彼女のうっとりと黒い瞳が彼を映した。
「耀」
薄紅色をした唇が初めて彼の名前を呼び、そこでようやく耀は自分が 初めて 彼女の名前を口にしていたことに気づいた。
その何か問いたげな清乃のやわらかな唇に今日初めてのキスを落として、深く絡める。
彼女の腕が耀の首に巻きつき、強くすがりつく。
ぴちゃぴちゃと合わさる唇の間から響く粘着質の音。静かな昼の玄関での刹那の情事。
普通なら太腿を隠すはずの清乃のフレアスカートは乱れ、開いたブラウスからは裸の胸が覗いたままだった。折り曲げられた白い足は、舌を絡めるたびにやらしく蠢く。
目の端に映るのは、先ほどまで繋がっていた大事な場所。
「ん……耀?」
清乃の燻る問いに答えるつもりはなく、耀は靴を脱がせると抱き上げて部屋へと運んだ。
自分自身も何もかも、考えられなくなる。
その淵まで。
一気に追い込む。そのために――。
*** ***
一日の謹慎が解けて真鍋耀が学校に行くと、校内にはいくつもの噂話があふれていた。そのほとんどが根拠のないデタラメばかりだったが、まことしやかに騙られては好奇の瞳で耀を遠くから眺めるのだった。
(まあ、いいか)
彼らの瞳に一定の鬱陶しさは感じるものの、実害はないので耀はそれをことさらに否定する気もなかった。
授業が終わって、生徒会室に入ると……そこには、名越真希がいた。
「……よ」
手を上げると、幼馴染の彼は耀を出迎えて複雑そうに笑った。
「お務め、ご苦労さん」
労われて、(ああ、そうか)とようやく思い至った。
「アレは、おまえの役目だったか。しまった」
余計なことをしてしまったと、思う。
すると、真希は呆れたように耀を見て「気づいてねーのかよ」と呟く。
「何が?」
「耀は、汐宮さんが好きなんだろ」
「……全然、違う」
ぼそり、と耀は口にして、考えた。
確かに、清乃の長い黒髪が切られた瞬間の感覚は他の誰にも感じたことのないモノだった。けれど、それは「所有欲」みたいなもので……「独占欲」とはまた違う。
その証拠に、耀は真希が清乃と深い恋人関係にあったとしても別段、何も感じはしないのだ。
「そうかー? 俺に遠慮しているんだったら……」
「だから、違うって」
気持ち悪いくらいの真希の態度に嫌な汗が流れる。
「そうですよ、名越くん。耀のアレは、わたしを身内に入れてくれた だけ のことですから」
生徒会室の戸口に立って、日本人形のような少女が清楚に微笑んだ。
「清乃」
「汐宮さん」
「言わば、名越くんとわたしの立場は 同じ なんです。そうでしょう?」
「……まあ。そうかもな」
なげやりに耀は答えた。こういう答え方をする時はあまり 深く 考えていないのだが。
「ふーん。だけど、汐宮さんは――」
真希が口にしようとすると、スッと彼女が動いてその口を止めた。
『 言わないで 』
と、彼女の黒い瞳が訴える。
「でも、汐宮さんは……」
それでいいのか、と真希は耀に聞こえないように彼女に訊く。
「いいの。わたしは耀が好きだけど……彼はそうじゃないんだから」
俯き加減で彼女は答えて、真希を儚げに仰いだ。短くなった黒髪、だけれどもそれくらいでは少しも彼女の美貌を損なわない。
「こんなわたしは、嫌い? 名越くん」
とんでもない! と、清乃の手を取って力強く見つめた。
『 大好きです! 』
その目が、めいいっぱい、そう語っているから清乃はくすくすと嬉しそうに笑った。
「よかった」
確信犯的な彼女の微笑みにいとも簡単に陥落する幼馴染を眺めて、耀は(よくやる)と椅子に座り机に肘をついて嘲った。
>>>おわり。
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