姫君 Siomiya Kiyono-1


〜NAO's blog〜
コチラの、「背徳の姫君」は「陽だまりLover」の姉妹作品です。
「なおのブログ」にて、「背徳の姫君」というタイトルから
インスピレーションで書き始め……膨らんだ話、第二弾です。
「陽だまり」の二人は登場しませんが……舞台は同じ「帝都浦川高校」
って、コトで「陽だまり」とはひとあじ違う、ビター味仕上げ(笑)。
生徒会の孤高の書記殿、真鍋耀の次は姫君、汐宮清乃視点です。
コチラ、一部に 教育上不適切 な箇所がございます。
大人じゃない方、苦手な方は――ご遠慮ください。
 



 一方的な 好意 も、一方的な 悪意 も同じくらい 苦手 だった。


 校舎裏で頬を叩かれ、ジンと熱くなる。
 チラリ、と相手を見ると彼女たちは興奮していて何かを激しく訴えている。
「人の彼に色目を使うなんて、信じられない! 顔だけのクセに」
「………」
 誰のことを言っているのか、サッパリ分からなかった。
 名前も知らない相手から告白されるのは、汐宮清乃〔しおみや きよの〕にとってよくあることだったし、名前だって覚えない。顔なんて、見る気にもならなかった。
 が、そんなふうに返した視線は彼女たちには、「反抗的」と映る。
 また、平手が飛んで集団心理の中の暴力はエスカレートする。
 コンクリートの壁に張りつけられるように手首を取られ、髪を掴まれた。

 頭上からバサバサバサと落ちてきた書類に、顔を上げる。

「あー、悪い。邪魔した?」
 二階の教室から覗いた彼は、たまたまそこに居合わせたように呟いて、「ちょっと煩かったから」とどうでもいいように付け足した。
「一応、校内で暴力沙汰は困るんだよ。俺、生徒会の役員だし」
 なんて。
 面倒そうに主張するけど、彼が「本当は」どう思っているのかまったく解からなかった。
「君たちが俺の立場を 解かって くれると、嬉しいんだけど?」
 真鍋さんよ、とコソコソと耳打ちをしていた彼女たちは、怯えたように顔を伏せて立ち去った。そんな彼女たちを目で追って、地面に視線を落とす。
 そこに落ちたノートや教科書は音楽のもので、二階の教室が特別教室の第二音楽室だとわかる。
「あの……」
 清乃が再び顔を上げれば、そこに はいなかった。



〜 汐宮清乃の場合 〜


 律儀に書かれた名前は、「真鍋耀〔まなべ よう〕」。帝都浦川高校の生徒会で書記をしている清乃と同級の男子生徒だった。
 品行方正で真面目、少し協調性に欠ける彼は同じ年代のクラスメートとは合わないらしい。
 親しくする友人らしい友人もなく、唯一の友人と言えば、いま生徒会の会長をしている幼馴染の名越真希〔なこし まき〕くらいだった。
 彼が生徒会の書記をしているのも、その幼馴染の強い要望があったからだ。
 コンコン、と生徒会室の扉を叩くと出てきたのは、清乃のお目当ての彼ではなく、その幼馴染の会長だった。
 真希は、校内でも有名な黒髪の綺麗なクラスメートが立っていて目を見開いていた。
「ええ? 汐宮さん?」
「こんにちは、名越くん」
 にっこりと微笑んで清乃は生徒会室の中をぐるりと見渡したが、どうやら今は彼以外誰もいないようだった。
「誰かに用?」
 不思議そうに真希は尋ね、清乃は首を振る。
「そうじゃないの。直接、渡したほうがいいかと思ったんだけど、名越くんなら安心ね」
「?」
 さらに不可解な表情になった真希に、清乃はあの日拾ったノートと教科書を差し出した。
「この間、助けてもらったの。お礼、言っておいてください」
 じゃ、と背中を向ける彼女に彼の手が止めた。
「あの、さ。汐宮さん」
「はい?」
 清乃は首をかしげながら、少しも驚かなかった。

「じつは、俺。ずっと君のこと、気になってたんだ」

 一方的に向けられる想いは苦手。「ごめんなさい」と断りながら、清乃はそれでも彼を利用しようと思った。
「わたし、あなたのこと知らないもの」
 そして、真鍋耀のことも――だから、もっと 教えて 欲しかった。



 本から目を上げ、眼鏡をかけた彼は紹介された清乃に一瞥をくべた。
 真鍋耀の視力は、普段は裸眼でも支障はないが、本を読む時などは眼鏡をかける程度に悪い。
 しっかりと自分をとらえた視線に、ほんの少し清乃は緊張して固まった。
「どうも」
 差し出された手に躊躇って、おずおずと重ねる。
 彼らしい低い温度。ひんやりとした指先にホッとする。
「真希と付き合うなんて、大変だろうけど」
「そうですね、やっかまれて大変です」
 おかしいほどの、気持ちの入っていない空虚な会話。
 一度会っているハズなのに、彼は思い出す気配もない。
 眼鏡の奥の黒い瞳には、きっとまだ何も映っていない。それが、たまらなく心地よかった。



 第二音楽室で机に押し倒され、手首を強く戒められても。
 露になった太腿の腹を撫でられても……怖くなかった。

 「痛い?」と訊かれれば痛かった。
 ブラウスの合わせ目を崩され、胸をまさぐられても嫌悪感は少しも感じなかった。純粋に気持ちいいとさえ、思う。
 喉から甘くかすれた声が溢れてくる。
 ブラに擦れる胸の先が期待に張りつめて、ジリジリと痛む。
「おまえが好きなのは、真希じゃないのか?」
 その静かすぎる声が好き。何も気にしない、干渉されない神様の声みたい。
 ゾクゾクする。
「わたしは――わたしを好きな人は好きにならない。人の感情は 怖い もの……だから、真鍋さんは好き。人の 感情 がないから」
「……そんなふうに言われるのは、初めてだな」
 初めて。
 清乃もこんなふうに素直に気持ちを言葉にしたのは、初めてだった。

「 あなたなら、幼馴染の 彼女 だって抱けるでしょう? 」

 きっと、この人なら受け入れてくれる。清乃は確信していた。
 自分と同質の……だけれども、自分よりも格が上の男。
「まあね」
 唇を舐めた彼は前準備もせずに清乃に押し入った。


*** ***


 真鍋耀の低温の指先が、お尻からショーツをずらし臀部から太腿をなぞり下りる瞬間だった。
「あ……」
 想像していなかったワケではない。それでも、汐宮清乃は目を見開く。
 激痛のような、鮮やかな映像が映る。
 大きくて、熱い何か。
 まだ開いていない花びらを引き裂いて貫いたそれが、身勝手に駆けて花園を散らしていく――。


「ッ……ひっ! いやぁっ!」

 痛くて、痛くてたまらなくて、清乃は悲鳴を上げた。
 そんなうっすらと涙を湛えた可憐な仕草の彼女を冷たく見下ろして、耀は「痛い?」と太腿の裏側を撫でながらさらに大きく開かせ、訊く。
「い、たい」
 何とか答えた彼女に、目をすがめて薄い唇の端を上げた。
「ワザとだよ。解かってるだろ」
 こくり、と頷いて清乃は彼に抱きつき、その背中に爪を立てた。
( わかってる )
 キスをして、彼の舌に自分の舌を絡める。
「……ッ」
 執拗に口の中にできた清乃の傷口を彼の舌が舐めたから、噛みついた。
 彼の血の味が口内に甘く広がって、口を拭う耀の目覚めたような眼差しを受け止める。
 手を伸ばして、請う。
「その目、好き」

 わたしを 支配 して。
 これは、契約なの。
 それくらいの、強い希〔のぞ〕み。

「あ、あっ……い、い」
 ぐちゅぐちゅと濡れてくる体に耀の動きが激しさを増した。
「いい、か。とんだ淫乱、だな……おまえ」
 喋ると舌の傷が痛むのか、耀は顔をしかめ報復のように清乃の体にあたった。
「……い、いの」
 爪を立てて縋りついたら、「爪を立てるなよ……」と忌々しげに吐き捨てる唇。
 カエルのように開いて辱められた白い足。制服のまま繋がる、優しさの欠片もない行為。
 それでも、いい。
 手酷い扱いをされても、気持ちを疑われても構わない。

 甘美な痛みに酔って……その目に、わたし以外の 誰も 映さないようにできるなら。


 >>>おわり。

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