新しい年が明けた夜、誰もいない馳輝晃〔はせ てるあき〕の自宅。その彼の部屋で抱きしめられて、仁道小槙〔にどう こまき〕は胸がドキドキした。
「どうしたん?」
彼女の変化に気づいた彼が覗きこむ。その間も、彼女の着ているコートや上着をパサパサと床に落としていく手は休めない。
ベッドまで誘って、自分の膝の上に彼女を乗せると少し見上げる位置にきた彼女の唇に軽いキスを一つ。
序章のような優しい感触に、小槙はぼんやりと彼を見下ろして首をかしげた。
「ここ、輝くんがずっと使ってた部屋なん?」
「うん? そうやな……小学校の時は違うけど、中学から高校を転校するまでは」
「ふーん」
ぎゅっ、と抱きついてきた小槙に、輝晃は不思議そうに「どうしたん?」ともう一度訊いた。
「夢みたいやねん……」
ゆっくりと体を離した彼女は、すぐそばで輝晃を見つめて笑う。
「 わたしが、馳くんの 部屋 におるなんて 」
小槙のブラウスが肌蹴られ、ブラジャーも外される。光を消した部屋に、うっすらと浮かぶ白い胸、手と舌で触れられれば実は色づいてツンと上を向いた。
跨った足から下着は器用に取りのぞかれて、スカートに隠された裸のお尻を輝晃の手のひらが撫でた。
闇に、甘い声が洩れた。
〜 夢色恋情 〜
中学三年の冬の初め。
終礼のショートホームルームが終わって、生徒のほとんどが帰宅した頃、三年一組の教室の扉が突如開けられた。
帰り支度をようやく終えた学級委員長の小槙に、入ってきた先生はホッと息をつく。
「仁道、すまんが」
「はい?」
首をかしげて担任の言葉を待つと、ぴらりとプリントを手渡される。
「志望校確認のプリント。今日、休んでた馳の分なんだが……ウッカリしててな。すまんが、届けてくれるか?」
「………え?」
「いや、締め切りが明日だろう? 本来なら、馳と仲のいい根岸とか不破に言付けるんだが、気づくのが遅かった。さっき、田村たちも見かけたんだがアイツらは馳と相性がよくないしでな……参ってるんだ」
痛恨の表情で、担任は饒舌に呟いた。
「ダメか。真面目な仁道なら安心して頼めるんだがなあ」
「……わかりました」
幸い、家も遠くはなかったので……コクリ、と頷く。
小槙の答えに、先生は助かった! と彼女の手を握った。
輝晃の住むマンションにやってきた小槙は、彼の家の前に立つと呼び鈴を鳴らした。
『仁道?!』
小槙の声を聞いて、インターホン越しの輝晃が驚いていた。
「あ、の……先生にプリント渡すようにって預かってきてんけど」
『待ってて』
ほどなく、玄関の扉が開いて中から彼が出てきた。
「えっと、これ……志望校確認のプリントやて。明日までやから……学校、行けそう?」
小槙が心配そうに伺うと、輝晃が笑って答えた。
「もう、だいぶええんや。今日は大事をとって休んだだけ」
その言葉通り、顔色もよく少し声が荒れている程度で元気そうだった。
「よかった……じゃあ、また明日」
ぺこり、と頭を下げた小槙に輝晃が「あの、さ」と小さく声をかける。
輝晃にしては、似合わないほど謙虚な言い方だった。
「上がっていかん?」
「え……でも」
小槙が渋ると、輝晃もすぐに「そうだよな」と引いた。
「悪い……風邪うつると大変やもんな。忘れて」
「……そんなんやない」
彼に届かない小さな声で、否定する。ただ、首をふって「ゆっくり休んでね」と逃げるように背中を向けた。
(――お願い、馳くん。
からかってるだけのくせに、ドキドキさせんといて)
あとになって聞く、彼の噂話に小槙は心を揺らした。
輝晃はあまり人を家にあげない。
彼女だった下凪亜矢子〔しもなぎ あやこ〕も、彼の部屋に入ったことはなかったらしい。
あれは、気まぐれ? それとも…… わたし だったから?
なんて。
これくらい夢見るだけなら、許される?
*** ***
「……ん、あっ」
うっすらと汗ばんで、跨る小槙の動きがそりたった輝晃をゆっくりと呑みこんでいく。
完全に入ったとき、小槙は自分をじっくりと見つめている彼に伏し目がちに見返して、恥ずかしそうに頬を染めた。
「あ、あんまり見んとって……あんっやっ」
輝晃が下から突き上げる。
「無理やし。ずっと入れたかった……から、小槙を」
この部屋に。
そして、こんなふうに中に埋め込んで乱れさせたかった。
囁く、輝晃を見つめ、朦朧としてくる頭で考える。
「中学の時でも? こんなやらしいことしたん?」
奥の奥の、一番感じる場所に彼の先があたって小槙の腰が揺れた。互いに求め合って、動きを止められなくなってくる。
「当たり前や……小槙さえ、応じてくれれば、な」
「それ……は、無理っ、ああ!」
ピリピリと背を弓反りにして、小槙が輝晃をきつく締め上げた。
深く突き上げ達した彼女に、繋がったままぐるりと体勢を置き換える。
押し倒した彼女の表情は恍惚と疲労の狭間で揺れていて、焦点の定まらない眼差しが輝晃を探していた。
その彷徨〔さまよ〕う腕を取って、自分の背中に廻させると、輝晃はふたたび彼女にグッグッと腰を沈めて、攻め入れていく。
「ふっ、……う、ん! ああっ」
敏感なままの彼女の身体は、ビクンビクンと反応を大きくして収縮をはじめた。
「あ、あ……」
しがみついた小槙は、もうされるがままに応じて腰を淫らに揺らし、彼にキスを求めた。
「ア、あん! もう……輝晃くんっ」
「いい。いって……小槙」
「アッ!」
目を見開いた小槙は、開いた足を痙攣させて輝晃を絞り、膜越しのその情熱を道連れにはるか彼方に意識を飛ばした。
>>>おわり。
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