焼けと机と室と。 過去と現在の考察


〜NAO's blog〜
 ■小槙さんと輝晃くんの、過去話+高校二年・春■



 例えば、それは廊下ですれ違う時や職員室で顔を合わせた時。
 全校集会や文化部の集まりの時など……顔を合わせれば、飛んできた視線だった。


( またか…… )
 と、半ば慣れてしまったその刺すような視線を生徒会長の坂上学〔さかがみ まなぶ〕は受け流す。
 視線の主は、高校の演劇部のホープである馳輝晃〔はせ てるあき〕という一年後輩の生徒だった。舞台で主役を張る彼は、なるほど顔が良くて、女生徒の中では不動の人気を誇っている。憂いを帯びた眼差しと人当たりのいい性格、根は真面目で優しいが好き嫌いはハッキリしている。
 告白をする女生徒はあとを絶たないが、いい返事をもらえたという話はとんと聞かない。
 そう――最近の噂では同じ演劇部の先輩である女部長・下凪亜矢子〔しもなぎ あやこ〕と付き合い始めたと聞いたが。
 しかし。
 この、変わらぬ視線を考えると怪しいな、と学は思った。

 学の見立てでは、十中八九――馳輝晃は生徒会役員の彼女、仁道小槙〔にどう こまき〕に惚れている。



〜 過去と現在の考察 〜


 それは、案外有名な説として校内の女生徒を中心に裏で唱えられていたようだ。
 だが、亜矢子との話がどうも噂ではなく、本当らしいと知れると掻き消えた。
 彼の相手が、演劇部のマドンナである彼女だと対抗する相手もそうはいないようで、色をふくんだ取り巻きも今は影を潜めているらしい。もちろん、彼のファンだという女の子は時々、くっついていたりするのだが――。
「 輝晃 」
 文化部同士の話し合いが終わると、お噂の彼女が彼を迎えに来た。
「終わった?」
 と、伺うように輝晃を見る亜矢子の表情に、学は違和感を感じて首を傾げた。
 よく知る相手ではないが、去年まではこの会合で顔を合わせていたから彼女の性格は把握しているつもりだ。女部長をしているだけあって、指導力が高く意思も強い。頑固なところもあるが、根本的にはサッパリとしていて潔い姉御肌だ。
(……間違えても、あんな表情はしなかったと思ったが。変わるものなのかな?)
「 会長 」
 輝晃が教室を出るのと、ほぼ入れ替わる形で小槙が顔を覗かせた。
 一瞬の強い視線に学は輝晃と視線を交わして、すぐにそらされる。
「輝晃?」
 扉の向こうの廊下にいる亜矢子の声に、小槙がふり返ると彼女は輝晃の背中だけを見たようだった。

 断ち切るように学を仰ぐと、何事もなかったように訊いた。
「すいません、この書類なんですけど……」
 その小槙の表情に、なんとなくおさげ髪の頭を撫でる。
 「きゃっ!」とビックリして、小槙は真っ赤になった。
「な、なんですか? 会長!」
「いや。校内一 奥手 の小槙君、君はホンマに男慣れしてへんよなあ……そこが、可愛いと言えば可愛いんやけど」
「何を急に……ほっといてください」
 ムゥ、と唇をすぼめて小槙は頬を染めたまま睨む。
「まあまあ、よく聞け。俺からのアドバイスや、ええか? 彼氏でも作れ。彼氏でも」
 わしゃわしゃと髪を乱されて、小槙は悲鳴を上げた。
「そんなんいきなり言われても、相手おらへんもん! 会長、やーめーてーください!!」

 睨み上げられて、学は笑った。

「そおかあ? 王子さまはお姫さまにゾッコンやのになあ」
 哀れ、だと彼に同情した。



 何の話やねん? とばかりに不審な目で小槙に見られたその日からすぐに、輝晃と亜矢子が別れたという話が広まった。事実、それから彼ら二人が一緒に居るところを見たことはないし。
 それに、輝晃に会えば、必ず睨まれた。
 一時期に比べれば、かなり落ち着いた眼差しだったが――。
「小槙君」
「はい、なんですか? 会長」
「馳君と何か、あったか?」
 と、訊いてみたことがあった。眉を寄せて、よく分からないという表情をした彼女に、(まだか? おかしいな)と他人の恋路ながら心配になったけれど。

( まあ、卒業までには彼も行動を起こすやろ )

 と、高見の見物を決めていた。


 馳輝晃が俳優デビューのために転校を決め、仁道小槙に 何か があったのはその年の秋。


*** ***


 カチッ、とライターに火をおこし、くわえたタバコにつける。
 ふっ、と紫煙を吐くと、目を細めた。
「 あの時、何があったのやら 」
 当時は、ツッコむのも憚〔はばか〕られたが、今ならどうだろうか。
 いまや、馳輝晃は若手俳優として押しも押されぬ人気を誇る 八縞ヒカル として活躍していて、弁護士となった仁道小槙と 完璧な 恋人関係にあるらしい。
 マスコミには伏せられた事実だが、いつか明るみになるだろう。

(「 結婚 」ねえ? さて、いつになることか……)

 その時まで――ネタを温存しつつ、情報収拾に努めようと、停車した車のステアリングに組んだ腕を乗せて、「フリーライター」である 坂上学 は夜の街を映してうっそりと微笑んだ。


 >>>おわり。


 

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