焼けと机と室と。 ハナ セナイ キモチ


〜NAO's blog〜
 ■小槙さんと輝晃くんの、過去話+中学一年・初夏■



 約束をした、小指がこそばゆくて……すこし恥ずかしかった、あの頃。



〜 ハナ セナイ キモチ 〜


 中学一年の球技大会、当日。

 健闘はしたものの、二回戦であえなく敗退した仁道小槙はやってきたクラスメートであり、小学校の頃からの仲良しである佐藤カナコに「ごめんな」と謝った。
「やっぱり、足引っ張ってもうて……せっかくカナコちゃんに特訓してもろたのに」
 鼻の頭に治りかけの傷がある黒ブチ眼鏡の少女が言うので、カナコは「ええよ、ええよ」と許してしまう。
「小槙ちゃんにしては、頑張ってたやん。最初、顔面でボールを受けてたとは思われへんわ」
 からからと笑い飛ばすカナコに、少し仏頂面になって小槙は唇を尖らせた。
「そ、そんなん言わんでもええのに。アレは油断しとっただけやもん」
「うん。まあ、ホンマに今日はよく頑張ってたよ……小槙ちゃん」
 よしよしと慰められて、小槙は照れ臭くなった。
「そう、やろか?」
「そうそう。ボールちゃんと受けてたし……あ。なあ、試合中騒がしかったやん? なんでか、知ってる?」
 ニヤニヤ、と笑って訊いてくるカナコに小槙は首を振った。
「ううん、なんで?」
「馳くん、来てたんやって……あーあ、負け試合見られるなんてツイテナーイ。どうせやったら、このカナコさまの華麗な勝ち試合を目に焼きつけて欲しかったワー」
 などと、冗談めかして呟く。
「……そう、なんや」
 なんとなく、小槙もどうせなら一回戦の方を見て欲しかったような気がした。
(ツイてへんの……)
「馳くんはサッカーやって、むっちゃ女の子たちが騒いどった。相変わらずやよねえ?」
「うん。やっぱりカッコいいもんね……あの、カナコちゃん」
「ん?」
 タオルで汗を拭っていたカナコが、ソワソワと落ち着きのなくなった親友を不思議そうに見る。
「今から、時間あるよね……試合、あらへんし」
「そうやねえ、しばらくは大丈夫やと思うけど……敗者対抗ドッジボールは自由参加やし」
 なんかあるん? と首を傾げた彼女に小槙は「ううん」と首を振って、「ちょっとトイレ」と体育館から出た。

(カナコちゃんに言うたら、またミーハーって笑われそうやし)

 自分でも、重症だと思う。
 一際ギャラリーの多いグラウンドで走り回る彼を見つめて、小槙は目が離せない 理由 を本当には気づいていなかった。


*** ***


 結局、準決勝で三年の優勝クラスと当たった一年一組は負けて、三位決定戦で三位に入っていた。
(運動神経がええんや、昔から……)
 小槙が返したボールをポーンとしなやかなフォームで打ち返す輝晃を見つめて、つい見入ってしまう。
(カッコいいし……って、きゃー! ボール!!)
「わっ!」
 気がつけば飛んできていたボールへの反応が遅くなり、もともとそれほどあるワケでもない運動能力に限界が来てラケットを振るのと同時に尻餅をつく。
 かろうじて当たったボールは、ネットに引っ掛かって転がった。
「たー」
 ハアハアと息をつき、尾てい骨のあたりをさすって何とか立ち上がる。
「輝くんのアホ!」
「なんでやねん」
 ネットに体重をかけた彼は、「大丈夫かー?」と彼女に声をかけながらラケットを肩に掛ける。
 パーカーにスウェットパンツ、その下には本格的なテニスウェアを着込んでいる。なんでも、事務所の意向で一通りのスポーツは経験したのだそうだ。
 ちなみに、小槙の着ているジャージパンツは自分の物だが、手持ちになかったスウェットは輝晃から借りたモノだったりする。
「小槙の集中力が切れただけやろ? なに、考えてたんや」
「……べ、べつに何も考えてへん」
 顔を背けて、首を振る。
「もう、あかん。限界やねん……休んでええ?」
 請うと、くすりと笑って輝晃は「ええよ」と許諾した。
「俺も――気持ちイイ汗かいたしな」

「  」

(み、耳元でヘンなこと囁かんといて!!)
 通常ならば、絶対に 卑猥 に聞こえるはずのない 言葉 だった。
 しかし、小槙は過剰に反応して真っ赤になる。
 それもこれも、輝晃のあの 発言 が悪い。絶対に悪い。100%で 有罪 だ。
(エッチの代わり――やなんて、言うから)
 赤く染まった耳を押さえて睨むと、彼は悪戯っぽくペロリと舌を出した。


 >>>おわり。


 

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