肩につく程度の長さの黒髪、黒ブチの眼鏡をかけた少女は赤いランドセルを背負って、家に入っていった。
「ただいまー」
わずかに聞こえる女の子の声に、外にいた馳輝晃は電柱にもたれた。
黒いランドセルは右肩に引っ掛けているのでもたれるのに、邪魔にはならない。
外の空気は冷たいが、心地いいほど澄んでいる。吐く息が白く濃く、目の前をのぼっていった。
〜 ランドセルとふゆのそら 〜
もうすぐ小学校の卒業を迎える。
毎日、卒業式の練習が繰り返されて……全員で合わせることになっている答辞の一部は、ほぼ暗記していた。
卒業生の代表を務めるのは、先程家に入っていった少女。
家の表札には「仁道」という苗字が、彫られている。
頭がよくて、真面目で、目立つことの少ない彼女の名前は、「小槙」と言う。善良すぎるくらい、お人よしな女の子だと思う。
ジッ、と彼女の家を見上げて、彼女の部屋はどこだろうかと考える。
(……なにを、かんがえてるんやろう。オレ)
そう、頭を振った輝晃は、ヌッと現れた大きな影に目を上げる。
目の前に立っていたのは、私服の大きな男だった。手には柔道の稽古着を持って、肩に引っ掛けている。
「なんや、おまえ。うちに用か?」
立っているだけで小学生の目線からすれば、圧迫感のある大柄な彼は言って、ふと名札に目を止めた。
「小槙のクラスメートか?」
お兄さんだろうか、と輝晃は戸惑った。どう答えればいいか、わからない。
誰かに、問い詰められるとは予想していなかった。
ただ、なんとなく……話がしたい。
運動会のあの時から、ずっと話せていないから……それだけだ。
なのに。
「小槙に用があるんやったら、呼ぶけど。まさか、告白やないやろな」
意地悪な笑みを乗せて、彼は言い、輝晃はさらに困惑した。
(オレが……仁道に告白やて? 好きかどうか……やなんて、知らん)
かわいい、とは思うけど……と、妙に冷静に考える。違うと否定してもいいのに、心の中の 何か がそれを拒んだ。
そんな輝晃の様子に、ムムッと顔をしかめた男は本当に告白に来たのだと早合点して(さすがに、まだ早いだろう)ともっともらしい理由をつけて追い払う。
「小槙のヤツも隅に置けん。しかし、少年……小槙は(兄である)俺のやさかい(まだ)あかんで」
「………」
ふい、と何も言わずに男の前から立ち去って、輝晃は胸がざわめくのを覚えた。
『 小槙は俺のやさかい 』
なんて、ムカムカする言葉だろう。
仏頂面になって、輝晃は「ぜったいウソや!」と吐き捨てた。
*** ***
小槙は俺のだと、刻みつけて輝晃は乱れた息の中、裸の彼女をベッドに沈めて自らを埋めこんだ。
ハアハア、と息を吐くのは彼女の方だ。
胸が上下に揺れて、「んくっ」と苦しげに息を呑む仕草が色っぽい。
「で、会ってくれるって?」
「うん。お母さんなんかむっちゃ乗り気や……輝くんが生で見れるの、楽しみみたい」
揺れる彼女の胸に触れて、やわやわと揉む。静かに彼女の中が反応して、輝晃を締めあげる。
「よかった」
「もう! よかったやないよ。輝くんのせいでむっちゃお兄ちゃんに怒られてんから」
キッ、と下になった格好で睨みつける小槙に輝晃はくすり、と笑った。
(こういう角度が一番、そそるって知らんかなあ?)
「ごめんて」
「もう、もう! 全然、そんなこと思うてない……ク、セにっ」
小槙は真っ赤になってポカポカ叩き、輝晃の動きを牽制した。しかし、彼の方がこういう方面は一枚も二枚も上手だ。
「ああ、バレた? せやけど、どこで?」
ニヤリ、と笑う。
「な! どこって?! ……ふぁッ」
彼女の背中に片腕を廻し、片手は胸から下肢に下りていく。
その間に、彼の動きは激しくなって、小槙は喘ぐしかなくなった。
「あ……ああっ……こんな動き……、あかん。わたし……へん、……やぁっ!」
輝晃の首に手をかけ、額を彼の肩につける。
「小、槙」
彼女の顎を持ち上げて、輝晃はキスをした。
「ぁん……」
浅い息、湿った髪……舌を絡めれば応えてくれる可愛い唇、朦朧とした瞳は涙に溶けそうで、呼応する淫らな身体は熱く燃えそう。
「 好き…… 」
あ。と洩れる、その甘くかすれた恍惚の 声 もすべて。
(俺しか知らない、俺だけの 小槙 ――)
くすり、と輝晃は 上機嫌に 唇の端を上げた。
>>>おわり。
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