番外2.皇城後日談・その後

■ 本編「月に棲む獣」の番外SSです ■
この「皇城後日談・その後」は、
本編「月に棲む獣」シリーズの番外です。
「月の泪、星に落つ」のその後。皇城のひとコマです。

 清葉皇城の玉座で報告を聞いた皇帝、肖世旻〔ショウ セイミン〕は目元のシワをより深くして相槌を打つ。
「ほう、あんな辺境でなあ……その後の消息は分かっておるのか?」
 それは物的根拠を求める問いに、回答は苦渋に満ちていた。
「いえ、皇帝陛下。滝壺に落ちたとなると死体を発見できるかどうか。里の者の話では、雪崩に巻き込まれたのは手配書の二人だという証言が複数とれておりますので、確実かと――」

「三年か……」

「 は? 」
「いや、いい。こちらの話だ。ご苦労だった、ゆっくり休むといい。忘れずに、二人は死亡という最終報告書の作成をしておけ」
「は! お心遣い痛み入ります、皇帝陛下。書類はすみやかに作成し、お持ちいたします」
 とある手配書の二人の捜索のため、長い旅をしてきた彼は、旅装も解かずに皇帝への謁見を余儀なくされた。
 それは、彼のもたらした最終報告が「被疑者死亡」の報だったことに起因している。戻ってすぐの第一報が皇帝へと届いた時点で徴集がかけられ、一も二もなく馳せ参じたというワケだが、追求は案外あっさりと終わった。

 退室する若い官吏を眺めながら、世旻帝は皇太子の花嫁とその誘拐犯死亡の報告を一笑にふした。
「春陽が死ぬとは思わなかったが……彼女「らしい」と言えば「らしい」結末のようにも思える」
 ふと、目を細めて皇帝はようやく彼らが解き放たれたのではないか、と思うと嬉しくなった。
 死亡の報告書が提出されれば、もはや彼ら二人を追うことはできなくなる。

「これで、荊和〔ケイカ〕も完璧に失恋か。お似合いだと思ったんだが――可哀そうに」

 実際問題、まったく可哀そうとは思ってない楽しそうなニヤケ顔で呟くと、世旻帝は軽妙な鼻歌を口ずさみ脇息を指で叩いた。



幕。

T EXT
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