SS‐1.香々の侍女日誌−秘密から誤解へ−
■ 本編「太陽の幻」の番外SSです ■
この「侍女日誌」は、本編2-3「誤解」の頃の侍女・香々がメインの話です。
ついでに、佐波とか侍女頭とか名前がついてますが、まあ気になさらず(^^ゞ。
本編既読後のご覧をオススメします。
バタバタ、と鳳夏の長い回廊を走りながら、香々〔かか〕は言った。
「ぜったいぜったい、そうですわ! 蓮王さまが、姫さまに何か よけいなことを言ったにちがいないですわっ」
「この時間なら、玉座で会議をしているハズよ! 香々、どうするつもり?」
ズンズン、と躊躇いなく玉座の間へとやってくると、あとから着いてきた佐波〔さわ〕が訊く。
「もちろん」
と、香々はにんまりと笑って扉に手をかける。
「直談判、ですわ!」
おもむろに大きな扉を全身を使って開け放ち、彼女は玉座に踏みこんだ。
「蓮王さまーーー! 香々は怒っていますっ」
と、叫んで中央に集まる影に王の姿を探した。
が。
「あれ?」
姿がないことに首をかしげると、「どうしました?」と王の右腕である紅が柔和な微笑みで訊いてきた。
「蓮に何か、用ですか? 香々」
「はい。姫さまのことで一言、ご申告差し上げたいことがありまして……紅さま、蓮王さまの所在をご存知では?」
ふっ、と笑って、紅は静かに告げた。
「弔い塚に――」
「香々?」
訝〔いぶか〕しむ佐波を背にして、香々はあっさりと引き下がった。
「分かりましたわ。でも、紅さま……これだけは蓮王さまにお伝えください。姫さまは――」
ばたん、とまた扉が開いて、紅は「おやおや」と呆れたように口にする。
「今日はやけに、客人が多いですね」
やってきたのは、侍女頭で玉座に香々と佐波がいることに、少なからず驚いていた。いつもなら、小言の一つでも飛んできそうなものなのに、今は、それどころではないらしい。
香々と佐波の横を通り過ぎると、一礼する。
「何用です? 銘子〔めいず〕。貴女まで」
「会議中、申し訳ありません。蓮王さまにお伝え願いたいのです」
と。侍女頭は、神妙に言った。
「 玉妃さまがお倒れになられました 」
静寂の中、彼女の声だけが反響した。
・・・fin.
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